カテゴリ / コラム モンテッソーリ教育を受けた子ども達
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モンテッソーリ教育で消極的な子どもはどう変わるのか。

子供着替えの写真

Bくんは入園当時(年少さん)、とても臆病なお子さんでした。
当時の彼を思い出すと、モンテッソーリの活動時間、外遊び、室内遊び、いつもどうしていいのかわからず、不安げに突っ立っている姿が真っ先に浮かんできます。
おもちゃも遊具もいろいろあるのに、自分が何をしたいのか分からない。仮に使いたいものがあったとしても、それを他の人が先に使っていたら、もうそこであきらめてしまう。とても消極的な印象を受けました。ましてやお友達の輪に入るなんてとても無理で、先生のそばから離れません。笑顔は少なく表情はこわばっていて、かなり気になるお子さんのひとりでした。
毎日、「今日は何して遊ぼうかな。これはどうかな?」とやりたいことを一緒に探し、「『入れて』って一緒に言ってみようか」とお友達の輪に入れるように誘い、Bくんが何か一つでも園生活で楽しいことが見つかるように接していました。

 

もうひとつ印象的だったのが、日常生活の中で行う手や体の動きがぎこちないこと。その中でも特に気になったのは、着替えです。
年少時は、自分一人では着替えられない子どもは少なくありません。そんな子たちもできないところを周りの大人に手伝ってもらいながら少しずつ自分で着替えられるようになっていくのですが、Bくんはその中でも特に気になりました。自分では何一つできなかったのです。
だから付き添う大人も、「まず服を脱ごうね」「袖を持ってひじを曲げてごらん」「手が下から出せるかな?」と動きをひとつずつ伝えることが求められました。本当に文字通り、手取り足取り、着替えに必要な動きを伝える日々が続きました。

 

大丈夫かな…と心配しながらも半年ほど過ぎた頃、Bくんの様子に変化が見られました。
相変わらず着替えはスローペースでしたが、自分でやろうとするようになっていました。まだぎこちなさは残っていましたが、その動きの中にBくんの「やってみよう!」と言う気持ちがはっきり見えたのです。
さらに半年後、年中さんにあがる少し前。今までと同じようにBくんの着替えを手伝おうとそばに行くと「だいじょうぶだよせんせい!ぼく、もうひとりでできるから。」
二度見ならぬ二度聞きしそうになりました。「え、今なんて言った?だいじょうぶだよって?ひとりでできるからって?あのBくんが?」

 

この頃には、お友達の輪の中に「いれて!」と自然に入って一緒に遊べるようになっていました。これはBくんにとってとても大きな変化です。笑顔が増え、堂々とした印象になりました。
年中さんにあがると、困っているお友達に「どうしたの?」と聞いてくれたり、自分より小さな子どものお世話を率先して行い、できないところを手伝ってあげたり…優しくて頼もしいお兄さん的存在になりました。さらに、お友達が間違ったことをしていたら「ダメだよ」と言えるようにもなりました。
およそ1年かけて、ものすごい変化を見せたBくん。彼の中で、いったい何が起こったのでしょうか。

自分のことができるようになると、人とのかかわり方が変わる幼児期

子どもが「自分でできる!」ことの喜びは、大人が代わりにやってあげて得られるものではありません。子どもが「やりたい!」と強く思ったときに、自分の手や身体や頭を使って、何度も繰り返し試行錯誤して、成し遂げることで初めて得られるものです。自分の心(意志)とからだがつながり、思い通りに動かせるようになることで初めて「できた!」という喜びが得られます。

この「自分でできるまで頑張った」体験を通しての「自分でできた!」喜びは、何にも変えがたい、とても深いものです。これが子どもの自己肯定感を高め、心の深い部分での自信となります。
すると今度は「自分のできることで人の役に立ちたい」という気持ちが出てきます。

 

モンテッソーリの3~6歳混合クラスでは、自分より小さなお友達がいつも一緒にいます。お手伝いしたい!やってあげたい!と思えばできる環境が常に整っているのです。
だから自分ができるようになると、困っているお友だちを手助けしたり、小さなお子さんのお世話をしたりという変化が自然に起こります。
その中で、「ここは自分でやりたいみたいだから、手伝わない方がいいな」「ここだけ手伝ってあげたら喜んでくれたな」と、相手の気持ちを想像し、尊重しながら人と関わることを実践的に学んでいきます。
これらの体験が積み重なって社会性が育ちます。

 

「できるようになるまで頑張った」「自分でできた!」という個人的な自己肯定感や自信の育ちと、集団生活に必要な社会性の育ちは、長い目で見ると深く繋がっているんです。
大人から見ると、大きな集団の中にいれば自然に社会性が育つような気がしますが、実際に子どもが育つ過程としては全く逆で、「個が育つ」→「社会性が育つ」という順番があるということを、Bくんの変化を目の当たりにしたことで特に強く感じました。

子どもの人間関係は子ども自身が作るもの。大人が直接介入しても、影響を与えられるのはほんの一部。大人ができるのは、子どもの存在をまるごと受け入れ、子どもが自分でできるようにお手伝いすることだけ。一見関係なさそうなこのことが、長い目で見たら人間関係の築き方にもよい影響を与える…そんなことを再認識させられたBくんの事例でした。

ライター/コマツヒロコ   AMI公認国際モンテッソーリ教師(2歳半~6歳+)、保育士。
東京国際モンテッソーリ教師養成センター卒業後、さいたま市にあるモンテッソーリあかねこどものいえに4年勤務。現在は横浜市の保育園に勤務中。
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