カテゴリ / コラム

「まだ言葉が出ない…」発語がゆっくりな子に、大人ができること

「もうすぐ3歳なのに、なかなか言葉が出ない」
「同じくらいの年齢の子は、もうたくさんおしゃべりしているのに……」

子どもの発語がゆっくりだと、どうしても心配になります。保育園や公園で同じくらいの年齢の子がおしゃべりしているのを見ると、「うちの子は大丈夫かな」と不安になることもあるでしょう。

でも、言葉の育ち方には一人ひとり違いがあります。早くからたくさん話す子もいれば、こちらの言っていることはよく理解しているのに、口から言葉として出てくるまでに時間がかかる子もいます。

AMI(国際モンテッソーリ協会)にも、「最初の言葉はいつ頃?」「なかなか話さない場合は、どんなことを見ればいい?」という質問が寄せられています。そこで語られているのは、「こうすれば話せるようになる」という方法ではありません。

発語だけを急がず、その子が何を聞き、何を理解し、どんなふうに人と関わろうとしているのかを見ること。

今回は、AMIが公開している言語発達や発話に関する資料をもとに、発語がゆっくりな子どもに、大人ができることを考えてみます。

「話さない」だけで、言葉の育ちを判断しない

私たちは「言葉の発達」と聞くと、どうしても口から出てくる言葉の数に注目します。

でも、言葉の発達は「話す」ことだけではありません。

「靴を持ってきて」と言うと靴を取りに行く。
「りんごはどれ?」と聞くと指差す。
欲しいものを指差して、大人の顔を見る。
身振りや表情を使って、何かを伝えようとする。

まだ口から言葉として出ていなくても、子どもの中では言葉の理解が進んでいたり、人とコミュニケーションを取ろうとする力が育っていたりすることがあります。

だから、「何語話せるようになった?」だけではなく、「この子は何を理解しているだろう」「どんな方法で伝えようとしているだろう」というところにも目を向けてみたいのです。

発語がゆっくりなとき、少し見てみたいこと

発語がゆっくりだからといって、すぐに何か一つの原因を探す必要はありません。言葉の育ちにはさまざまなことが関係していて、一つの理由だけで説明できないことも多いからです。

ただ、「こんなところも少し見てみようかな」というポイントはいくつかあります。

聞こえはどうだろう。
こちらの言葉を理解しているだろうか。
自分から何かを伝えようとしているだろうか。
毎日の生活の中で、その子自身に向けて話しかけているだろうか。
大人が気持ちを分かりすぎて、先回りしていないだろうか。
そして、数か月前と比べて何か変化はあるだろうか。

これは「原因探し」ではありません。その子の今の姿を知るための観察です。

まず、「ちゃんと聞こえているかな?」

発語というと「話すこと」に目が向きますが、言葉を話す前に、子どもは周囲の言葉をたくさん聞いています。

そこで意外と見落とされやすいのが、耳の状態です。

たとえば中耳炎などによって中耳に液体がたまると、音がこもったように聞こえることがあります。大人には普通に聞こえている言葉でも、子どもには同じように届いていないことがあるのです。

特に小さな子どもは、「今日は聞こえにくい」と自分から説明してくれるわけではありません。

鼻水が長く続いている。
中耳炎を繰り返している。
呼びかけても振り向かないことがある。
音への反応が以前と違う。

そんなことが気になる場合には、「言葉が遅い」と考えるだけではなく、耳鼻科などで耳や聞こえの状態を確認してみることも大切です。

「どうしたら話してくれる?」と考える前に、「この子には、私たちの言葉がどんなふうに聞こえているのかな?」と考えてみる。

発語を見るときには、「話す側」だけでなく「聞く側」も見ておきたいのです。

その子に向けて、言葉を届ける

家の中には、たくさんの言葉があります。テレビから聞こえる言葉、大人同士の会話、動画や音楽から流れてくる言葉。

でも、子どもにとって特に意味を持つのは、自分が経験していることに結びついた言葉です。

靴下を履きながら、「靴下を履こうね」。
散歩中に犬を見つけたら、「犬がいるね」。
りんごを洗いながら、「赤いりんごだね」。
包丁で切るところを見ながら、「切るよ」。
雨が降ってきたら、「雨が降ってきたね」。

子どもが今、見ているもの、触っているもの、感じていることに、大人が自然に言葉を添えていきます。

モンテッソーリの言語教育でも、言葉は生活から切り離されたものではありません。実際に見る、触る、嗅ぐ、動かすといった経験と結びつくことで、言葉は子どもにとって意味のあるものになっていきます。

「言ってみて」を頑張りすぎなくてもいい

言葉がなかなか出ないと、大人はつい焦ります。

「りんご。ほら、り・ん・ご」
「言ってみて」
「これは何?」

もちろん、子どもが楽しんでいるなら言葉遊びになることもあります。でも、いつも答えを求められると、会話が「テスト」のようになってしまうこともあります。

言葉は、正解を答えるためだけのものではありません。

一緒に面白いものを見つける。
おいしいものを食べる。
歌を歌う。
絵本を読む。
今日あったことを話す。

そんな経験の中で、「伝えたい」「聞いてほしい」「もっと知りたい」という気持ちも育っていきます。

言葉を「出させる」ことより、言葉を使いたくなるような関係や経験を豊かにする。

急いで答えを求めなくてもいいのです。

分かってあげられるからこそ、少し待ってみる

毎日一緒にいると、子どもが何を欲しがっているのか、言葉にしなくても分かるようになります。

冷蔵庫の前に立っただけで、「ヨーグルトね」。
コップを指差した瞬間に、「お水ね」。

分かってあげられるのは、親子の関係があるからこそです。もちろん、それ自体が悪いことではありません。

でも、ときにはほんの少しだけ待ってみてもいいかもしれません。

子どもが指差す。
こちらを見る。
声を出してみる。
身振りを使う。
知っている言葉を使ってみる。

すぐに「言ってごらん」と求める必要もありません。

「あなたが伝えようとしていることを、私は待っているよ」という時間を少しつくる。

その子なりの伝え方を受け止めながら、コミュニケーションのやりとりを続けていきます。

発語だけではなく、「変化」を見てみる

同じ年齢の子どもと比べ始めると、心配はどんどん大きくなります。そんなときには、少し視点を変えて、その子自身の数か月前と比べてみます。

理解できる言葉が増えてきた。
指差しが増えた。
大人の顔を見て何かを伝えようとするようになった。
声の種類が増えた。
一つだった言葉が少しずつ増えてきた。
身振りと言葉を一緒に使うようになった。

こうした変化も、言語やコミュニケーションの発達です。

言葉の育ちには大きな個人差があります。一方で、長い間まったく変化が見られない場合には、「個人差だから」とずっと待ち続けるのではなく、一度専門家に相談してみるという選択肢もあります。

焦って比べるのではなく、何もしないで待つのでもなく、その子自身の変化を見続ける。

ここに「観察」の意味があります。

専門家に相談することは、「問題を決める」ことではない

「相談したら、何か診断されるのでは」と不安になる方もいるかもしれません。

でも、専門家に相談する目的は、子どもに何かのラベルをつけることではありません。今、その子にどんな援助が役立つのかを知るためです。

耳や聞こえが気になれば耳鼻科へ。
発達全体について気になることがあれば小児科や発達相談へ。
言葉やコミュニケーションについて相談したければ言語聴覚士へ。

モンテッソーリ教育も、専門的な支援の代わりになるものではありません。発話や学習に困難がある子どもについては、必要に応じて専門家と協力しながら、その子に合った環境や援助を考えていきます。

「様子を見る」ことと、「一人で抱えて待つ」ことは同じではありません。

気になることがあれば相談していい。そして、専門家の力を借りながら、家庭や教室ではその子が安心して言葉やコミュニケーションを育てられる環境をつくっていけばいいのです。

「まだ話さない」の中にも、育っているものがある

言葉は、ある日突然ゼロから生まれるものではありません。

聞くこと。
見ること。
触れること。
動くこと。
物に名前があることを知ること。
人と経験を共有すること。
そして、「伝えたい」と思うこと。

そんな毎日の積み重ねの中で、子どもは少しずつ言葉を自分のものにしていきます。

だから、まだ口から言葉として出ていない時期にも、その子の中ではいろいろなものが育っているかもしれません。

発語だけを急がせるのではなく、何を理解しているのか、何を伝えようとしているのか、どんなふうに言葉を聞いているのか、どんな経験と言葉が結びついているのかを見ていく。

そして、必要なときには専門家の力も借りる。

「まだ話さない」ではなく、「今、この子はどんなふうに世界と言葉を結びつけているんだろう」。

そんなふうに子どもの今を見ることから、言葉への援助を始めてみてもいいのではないでしょうか。

参考資料・出典

Association Montessori Internationale(AMI)
「Their First Words」
AMI公式記事を見る

Association Montessori Internationale(AMI)
「Supporting Children with Learning and Speech Difficulties」
AMI公式記事を見る

Association Montessori Internationale(AMI)
「Language in the Montessori Environment for Children Aged 3 to 6」/Voices of AMI Training
AMI公式記事を見る

Association Montessori Internationale(AMI)
「See, Support, Share: Observation and Intervention」/Voices of AMI Training

※本記事は、AMI公式資料をもとに、発語や言語発達についてモンテッソーリ教育の「観察」と「環境」の視点から紹介したものです。言語発達には個人差があり、本記事は医学的な診断や個別の治療・療育に代わるものではありません。気になることがある場合は、小児科、耳鼻科、言語聴覚士などの専門家へご相談ください。

2026.08.27カテゴリ / コラム モンテッソーリケア

認知症になったモンテッソーリ教育の先駆者――今度は「モンテッソーリケア」が彼女を支えた

2026.08.27カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て

赤ちゃんの「ひとりで眠る」を急がなくていい – モンテッソーリから考える睡眠の自立

2026.08.26カテゴリ / コラム AMI公式 モンテッソーリQ&A

AMI Q&A|なぜモンテッソーリでは「3時間のワークサイクル」を大切にするの?

2026.08.26カテゴリ / コラム

日本にモンテッソーリ教育を伝えたのは誰だったのか? ― 赤羽惠子と松本静子、二人の歩みからたどる114年の歴史

2026.08.26カテゴリ / コラム

「まだ言葉が出ない…」発語がゆっくりな子に、大人ができること

2026.08.25カテゴリ / コラム AMIトレーナーの言葉

「言うことを聞かせる」ことでは育たない。子どもの自己規律はどう育つ?