「ちょっと待って!」子どもを助けすぎると、自信をなくす? 619人の研究からわかったこと

子どもが靴を履こうとしているけれど、なかなか履けない。
ボタンを留めようとしているけれど、時間がかかっている。
パズルを考えているけれど、答えにたどり着けない。
そんな姿を見ていると、大人はつい、
「こうすればいいよ」
「ここじゃない?」
「やってあげようか?」
と助けたくなります。
もちろん、それは子どもを困らせたいからではありません。むしろ「助けてあげたい」という優しさから出てくる行動です。
ところが、その「よかれと思ってした援助」が、子どもの自信や意欲を下げてしまうことがあるとしたら、どうでしょうか。
今回取り上げるのは、AMI(国際モンテッソーリ協会)の「AMI Research Threads」で紹介された、オランダの研究者Jellie SierksmaとEddie Brummelmanによる研究です。
タイトルは、「“Here, Let Me Do It for You”:子ども時代に直接的・間接的な援助を受けることの心理的影響」。
7〜9歳の子ども合計619人を対象にした3つの実験から、大人の「助け方」について、とても興味深い結果が見えてきました。
「答えを教える」「ヒントを出す」「何もしない」を比べてみた
研究はオランダで行われました。対象となったのは7〜9歳の子どもたちです。
研究者たちは3つの実験を行い、合計619人の子どもが参加しました。子どもたちはパズルのような課題に取り組みます。
そこで、大人からの援助を3つのパターンに分けました。
① 答えを教える
正しい答えそのものを子どもに伝えます。
② ヒントを与える
答えそのものではなく、解決につながるヒントを伝えます。
③ 援助しない
子ども自身にそのまま取り組ませます。
ここで大切なのは、今回調べられたのが、子ども自身が求めたわけではない「頼まれていない援助」だったことです。
子どもが「教えて」「手伝って」と助けを求めた場面を調べた研究ではありません。
助けてもらった子どもは「自分はできない」と感じやすくなった
3つの実験をまとめて分析したところ、援助を受けた子どもたちは、援助を受けなかった子どもたちに比べて、自分の能力を低く感じる傾向が見られました。
さらに、
課題をあまり楽しいと感じなくなる。
「自分にはもっと助けが必要だ」と感じる。
といった傾向も確認されました。
また3つ目の実験では、援助を受けた子どもたちは、その後、より難しい課題に挑戦することも少なくなりました。
つまり、大人としては、
「困っているだろうから助けてあげよう」
と思ってしたことが、子どもには、
「自分ではできないから、大人が助けたのかな」
というメッセージとして伝わってしまう可能性があるのです。
では「答え」ではなく「ヒント」ならいい?
ここが、この研究の特に面白いところです。
答えそのものを教えてしまうのは良くないとしても、
「ヒントだけならいいのでは?」
と思いませんか?
教育の場でも、「答えを教えるのではなく、ヒントを出しましょう」と言われることがあります。
ところが今回の研究では、答えを直接教えられた場合と、ヒントを与えられた場合で、心理的な影響の多くは似ていました。
どちらの場合でも、援助を受けなかった子どもと比べると、自分の能力を低く感じたり、課題を楽しめなくなったり、もっと援助が必要だと感じたりする傾向が見られました。
もちろん、「ヒントは全部ダメ」という意味ではありません。
今回調べられたのは、あくまで子どもが求めていないのに、大人から与えられた援助です。
ここは、この研究を理解するうえで非常に重要です。
「助けない方がいい」という研究ではない
ここまで読むと、
「じゃあ、子どもが困っていても助けない方がいいの?」
と思うかもしれません。
そういうことではありません。
子ども自身が助けを求めているときや、本当に援助が必要なときには、大人の援助はもちろん大切です。
また、この研究で確認された心理的な影響について、研究者たちは効果の大きさは小さいとも報告しています。
一度ヒントを出しただけで、子どもの自信が大きく損なわれる、という話ではありません。
この研究が教えてくれるのは、もっと日常的なことです。
「子どもが困っているように見える」ということと、「子どもが助けを必要としている」ということは、必ずしも同じではない。
ということです。
モンテッソーリ教師が「観察」する理由
これは、モンテッソーリ教育の考え方と非常によくつながります。
モンテッソーリ教育では、大人が子どもに何かを教えることと同じくらい、子どもを観察することを大切にします。
例えば、子どもがボタンを留めようとしているとします。
なかなか穴に入りません。
何度も失敗しています。
時間もかかっています。
大人から見れば「困っている」ように見えるかもしれません。
でも、子どもの表情をよく見てみると、困っているのではなく、ものすごく集中していることがあります。
一度失敗する。
もう一度やる。
角度を変える。
指の使い方を変える。
また試してみる。
その時間、子どもは「できない」のではありません。
「できるようになろうとしている途中」なのです。
そこで大人が「こうするのよ」と手を出してしまえば、確かに早く終わります。
でも、子どもが自分で試し、自分で間違いに気づき、自分の力でできたと感じる機会も、一緒に終わってしまいます。
「Help me to do it myself.」
モンテッソーリ教育を紹介するときによく使われる言葉に、
「Help me to do it myself.」
「ひとりでするのを手伝って」
という表現があります。
ここでいう「手伝う」は、大人が代わりにやってあげることではありません。
子どもが自分でできるように、環境を整える。
必要であれば、ゆっくりやり方を示す。
そして子どもが活動を始めたら、必要以上に介入せずに見守る。
大人の役割は、子どもの代わりに問題を解決することではなく、子ども自身が問題を解決できるようになるための援助をすることです。
今回の研究はモンテッソーリ教育そのものを調べた研究ではありません。
それでも、「よかれと思って先回りして助けることが、必ずしも子どものためになるとは限らない」という結果は、モンテッソーリ教育で大切にされてきた大人のあり方と、とても興味深く重なります。
家庭でできることは、とてもシンプル
では、子どもが何かに苦戦しているとき、大人はどうすればいいのでしょうか。
すぐに答えを教えるのでもなく、すぐにヒントを出すのでもなく、まず少しだけ待ってみる。
子どもの手を見る。
表情を見る。
もう一度やろうとしているかを見る。
そして、
「この子は今、本当に助けを必要としているのかな?」
と考えてみる。
子どもが自分で考え続けているなら、その時間を奪わない。
助けを求めてきたら、そのとき初めて「どこまで手伝えば、この子が自分で続きをできるだろう」と考える。
たったそれだけでも、大人の関わり方はかなり変わります。
結局、この研究から何がわかったの?
今回の研究では、7〜9歳の子ども619人を対象とした3つの実験から、子どもが求めていない援助を大人から受けることで、自分の能力を低く感じたり、課題への楽しさや挑戦する意欲が低下したりする可能性が示されました。
そして興味深いことに、「答えを教える」場合だけでなく、「ヒントを与える」場合にも、多くの点で似た傾向が見られました。
ただし、研究で確認された効果は大きなものではなく、また「子どもを助けてはいけない」という研究でもありません。
大切なのは、
「助ける前に、まず子どもを見る」
ということなのだと思います。
できないから手を出すのではなく、今まさに「自分でできるようになろうとしている時間」なのかもしれないと考えてみる。
大人にとっては、手を出すことより、待つことの方が難しいことがあります。
でも、その「少し待つ時間」の中に、子どもが自分の力を発見する瞬間があるのかもしれません。
※この記事はAMI(Association Montessori Internationale)の公式翻訳ではありません。AMI Research Threadsおよび原著論文などの公開情報を参考に、バンビーノが日本の保護者・教育関係者向けに独自に要約・解説しています。今回の研究はモンテッソーリ教育そのものの効果を調べた研究ではありません。
参考資料
Sierksma, J. & Brummelman, E.(2025)
“Here, Let Me Do It for You”: Psychological Consequences of Receiving Direct and Indirect Help in Childhood
Child Development, 96(5), 1660–1674.
Association Montessori Internationale(AMI)
AMI Research Threads:Psychological Consequences of Receiving Direct and Indirect Help in Childhood
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