カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て

歩く練習はさせなくていい? ― 赤ちゃんが自分で「最初の一歩」を獲得するまで

まだ一人では歩けない赤ちゃんの両手を持って、「いち、に、いち、に」と歩かせる。周りの同じ月齢の赤ちゃんが歩き始めたと聞けば、「うちの子も練習させたほうがいいのかな」と心配になることもあるでしょう。

けれども、赤ちゃんが歩けるようになるために、大人が歩き方を教え込む必要はありません。

赤ちゃんは、寝返り、ずりばい、おすわり、はいはい、つかまり立ち、伝い歩きと、さまざまな動きを経験しながら、自分の身体を少しずつ使いこなしていきます。最初の一歩は、その積み重ねの先に、赤ちゃん自身が獲得するものなのです。

この記事では、AMI(国際モンテッソーリ協会)が保護者のために公開している子育て支援サイト「Aid to Life」の内容を手がかりに、赤ちゃんが歩き始めるまでの発達と、その時期に大人ができることを考えます。

Aid to Lifeは、モンテッソーリの考え方をもとに、乳幼児の「動き・運動」「コミュニケーション」「自立」「自己規律」について、家庭でできる具体的な援助を紹介しているサイトです。今回取り上げるのは、その中の「動き・運動」に関する内容です。

歩くことは、足を前に出すだけではありません

大人には簡単に見える「歩く」という動きも、赤ちゃんにとってはとても複雑です。

自分の力で立ち上がり、両足に体重をかけ、左右へ重心を移す。家具から片手を離し、立ったままバランスを保ち、転びそうになれば膝を曲げたり、手をついたりする。こうした経験がつながって、やがて最初の一歩になります。

大人が赤ちゃんの両手を持って歩かせれば、足を交互に動かすことはできます。しかし、そのときの赤ちゃんは、大人の手に身体を支えてもらっています。

歩くために本当に必要なのは、足を前に出す練習だけではありません。赤ちゃんが自分の身体を感じながら、立つことやバランスを何度も試す経験です。

「練習させない」は、何もさせないことではありません

歩く練習をさせなくてよいからといって、大人は何もしなくてよい、という意味ではありません。大人にできるのは、赤ちゃんが自分から動き、何度でも試せる環境を用意することです。

つかまっても動いたり倒れたりしない安定した家具を用意する。床には十分な広さを確保し、滑りやすい敷物や、転倒したときにぶつかる危険なものを取り除く。赤ちゃんの胸ほどの高さに、握りやすいバーを取り付ける方法もあります。

赤ちゃんが興味を持つものを、立ち上がると見える位置に置くのもよいでしょう。「見たい」「触りたい」「取ってみたい」という気持ちが、赤ちゃんを自分から動かします。

動画で見る、赤ちゃんが自分で立ち上がる環境

赤ちゃんは、大人に身体を引き上げてもらわなくても、つかまりやすく安定した場所があれば、自分から立ち上がろうとします。まずは、はいはいからつかまり立ちへと向かう姿を見てみましょう。

はいはいからつかまり立ちへ。赤ちゃんが自分の力で身体を動かし、次の段階へ進んでいく姿です。動画:AMI Montessori「Aid to Life: Movement – Crawling and Standing」

動画の赤ちゃんは、誰かに立たせてもらっているのではありません。自分で移動し、興味のあるものに手を伸ばし、つかまる場所を見つけています。

次の動画では、低く安定したスツールにつかまり、自分の力で立ち上がる様子を見ることができます。

安定したスツールにつかまり、自分の力で立ち上がる赤ちゃん。大人が立たせるのではなく、赤ちゃん自身が立ち上がれる環境を用意します。動画提供:Michael Olaf Montessori Company/掲載:Aid to Life

赤ちゃんはスツールをつかみ、足の裏で床を押し、全身を使って立ち上がっています。立ち上がったあとも、手の位置を変えたり、膝を曲げたりしながら、自分の身体を支える方法を探しています。

大人が赤ちゃんを立たせることと、赤ちゃんが自分で立ち上がれる環境を用意すること。この二つは、よく似ているようで大きく違います。

大人の手につかまって歩かせてはいけないの?

赤ちゃんが手を伸ばしてきたときに手を貸したり、一緒に数歩歩いたりすることまで避ける必要はありません。親子の楽しいやり取りとして、手をつないで歩くこともあるでしょう。

ただし、それを「早く歩けるようにするための練習」として、繰り返す必要はありません。特に、大人が赤ちゃんの両腕を高く持ち上げた状態では、赤ちゃんは自分でバランスを取るよりも、大人の手に身体を預けて歩くことになります。

家具につかまり、自分で立ち上がる。片手を離し、またつかまる。少し横へ移動し、座り、もう一度立ち上がる。こうした赤ちゃん自身の試行錯誤を、急がせずに見守ることが大切です。

転ぶことも、歩くための経験です

赤ちゃんが立ち上がるようになると、転ぶことが心配になります。けれども、転びそうになったときに膝を曲げる、手を床につく、おしりをついて座るといった動きも、自分の身体を守るために必要な経験です。

もちろん、階段や家具の角、倒れやすい椅子など、大きな事故につながる危険は大人が取り除かなければなりません。そのうえで、小さな失敗まで先回りして止めてしまわず、安全に試せる余地を残します。

立つ。手を離す。ぐらつく。座る。そして、また立つ。赤ちゃんはその繰り返しを通して、自分の身体の使い方を学んでいきます。

歩行器と手押し車は同じではありません

「歩く練習」と聞いて思い浮かべるものの一つに、赤ちゃんを座らせて使用する車輪付きの歩行器があります。

米国小児科学会は、このタイプの歩行器について、歩行の習得を助けるものではなく、歩き始めを遅らせる可能性があると説明しています。また、階段からの転落や、通常では届かない場所に手が届くことによる事故の危険性も指摘しています。

一方、自分で立てるようになった赤ちゃんが押して進む手押し車は、座って乗る歩行器とは異なります。ただし、軽すぎるものは、赤ちゃんが体重をかけたときに急に前へ進んだり、倒れたりすることがあります。

赤ちゃんがすでに自分でつかまり立ちをしていることを確認し、適度な重さがあり、簡単に転倒しない安定したものを選びましょう。手押し車も訓練器具ではなく、赤ちゃんが自分から使いたいときに利用できる環境の一つです。

歩き始める時期は、赤ちゃんが決めます

歩き始める時期には個人差があります。身体の大きさ、筋力、バランス、慎重さ、動くことへの意欲などは、一人ひとり異なります。

早く立ったから優れているわけでも、ゆっくり歩き始めたから劣っているわけでもありません。Aid to Lifeでは、バランス、身体の協調、筋力、そして自信がそろったときに、子どもは歩き始めると説明しています。

大人には小さな一歩に見えても、赤ちゃんはそれまでに、数え切れないほど立ち上がり、座り、転び、もう一度挑戦しています。その準備が整う時期は、赤ちゃん自身の中にあります。

周囲の子どもと比べるのではなく、昨日までできなかった動きを、今日試していることに目を向けてみましょう。発達について気になることがある場合は、「練習が足りない」と考えるのではなく、乳幼児健診や、かかりつけの小児科などで相談してください。

最初の一歩のあとも、子どものペースで

歩き始めたばかりの子どもにとって、歩くこと自体が大きな探究です。途中で立ち止まり、石を見つめ、葉に触れ、来た道を戻り、また別の方向へ進みます。

大人にとっての散歩は、目的地まで移動することかもしれません。しかし、歩き始めた子どもにとっては、一歩ずつ身体を使いながら、世界を確かめる時間です。

歩けるようになったあとに必要なのも、「上手に歩くための練習」ではありません。急かされず、すぐに抱き上げられず、自分のペースで歩ける時間です。

歩かせるのではなく、歩き出すまでを支える

赤ちゃんの歩行発達で大人ができることは、足を動かして歩き方を教えることではありません。

自由に動ける時間をつくる。安全に試せる場所を整える。安定した家具を用意する。そして、赤ちゃん自身のタイミングを信じて待つ。

大人に立たされ、歩かされて踏み出す一歩ではなく、自分で立ち、自分でバランスを取り、「行ってみたい」と思って踏み出す一歩。

それは、赤ちゃんが自分の力で獲得した、かけがえのない最初の一歩です。

参考資料・出典

Association Montessori Internationale/Aid to Life
「つかまり立ちを支える家具」
Aid to Life公式ページを見る

Association Montessori Internationale/Aid to Life
「歩きたい!を応援しましょう」
Aid to Life公式ページを見る

Association Montessori Internationale/Aid to Life
「歩行に関してよく聞かれる質問」
Aid to Life公式ページを見る

Association Montessori Internationale/Voices of AMI Training
Nancy Kodera「Meeting an Infant’s Movement Needs」
AMI公式記事を見る

American Academy of Pediatrics/HealthyChildren.org
「Baby Walkers: A Dangerous Choice」
米国小児科学会の公式ページを見る

上野毛|0歳から1歳半までの親子クラス
バンビーノのニドクラスで、赤ちゃんの育ちを学びませんか?
上野毛モンテッソーリこどものいえ「バンビーノ」では、0歳から1歳半までの赤ちゃんと保護者が一緒に参加するニドクラスを開催しています。
赤ちゃんが過ごすモンテッソーリの環境を実際に見ながら、運動、食事、睡眠、ことばなど、この時期の発達と家庭での関わり方を学ぶ全3回のクラスです。

2026.09.01カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て

歩く練習はさせなくていい? ― 赤ちゃんが自分で「最初の一歩」を獲得するまで

2026.09.01カテゴリ / コラム

ピースボート – 船の上のモンテッソーリ「子どもの家」

2026.09.01カテゴリ / コラム

「すぐ答えを教えない大人」- AI時代に改めて考えたい、子どもの「問い」を守ること

2026.08.31カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て

つかまり立ちは早いほど喜んでいいの? – 知っておきたい「はいはい」の大切さ

2026.08.31カテゴリ / コラム 食とモンテッソーリ

子どもの食卓に花を飾るのはなぜ? ― モンテッソーリが大切にする「美しい環境」

2026.08.30カテゴリ / コラム

8月31日はマリア・モンテッソーリ生誕156年。今も世界に生き続ける教育