「動物がしゃべる絵本」はダメですか? – モンテッソーリと、素晴らしい物語に出会うこと

モンテッソーリ教育について学んでいると、こんな話を耳にすることがあります。
「小さな子どもには、動物がしゃべる絵本は読まない方がいい」
「ファンタジーより、現実に基づいた絵本を」
「6歳頃までは、できるだけ現実の世界を」
その背景には、きちんとした理由があります。
モンテッソーリ教育は、幼児期の子どもが「現実の世界を知ること」をとても大切にしているからです。
けれど、ここで少し立ち止まってみたいのです。
「現実を大切にすること」と、「動物がしゃべる絵本を読まないこと」は、本当に同じなのでしょうか。
AMI(国際モンテッソーリ協会)の公式資料をたどっていくと、この問題は「ファンタジーは○、それとも×」というほど単純ではないことが見えてきます。
まず、AMIは確かに「現実」を大切にしています
ここは曖昧にしてはいけないところです。
AMI公式Q&A「Building Imagination on a Foundation of Reality」では、5歳半〜6歳頃までの子どもについて、本物を扱いながら現実世界を知っていくことの重要性が説明されています。
料理をする。
水を注ぐ。
洗濯をする。
花を生ける。
植物を育てる。
画面の中で誰かがパンを作るのを見ることと、自分の手で小麦粉に触れ、生地をこね、匂いを感じ、焼き上がるまで待つことは同じではありません。
子どもは、自分の身体と感覚を使いながら「この世界はどうなっているのか」を少しずつ理解していきます。
AMIは、こうして幼児期に蓄積された現実についての経験が、その後の想像力を支える具体的な土台になると説明しています。
そして、このQ&Aでは本についても触れています。AMIが幼児期に優先するとしているのは、現実に基づいた内容の本です。子どもや家族の日常生活など、子どもが自分の経験と結びつけられる内容が挙げられています。
つまり、「モンテッソーリでは幼児期に現実に根ざした絵本を大切にする」という理解そのものは、決して根拠のないものではありません。
では、「動物がしゃべる絵本は禁止」なのでしょうか
ここからが、今回考えてみたいところです。
AMIが「現実に基づいた本を優先する」と述べていることと、
「動物がしゃべる絵本は読んではいけない」
というルールは、同じことなのでしょうか。
AMIのQ&A、Training Voices、過去の公式資料を確認してみても、少なくとも確認できた資料の中には、
「動物がしゃべる絵本は禁止」
「3歳まではファンタジー絵本を読ませない」
「6歳まではファンタジー絵本を読ませない」
という、一律の年齢による禁止規定は見つかりません。
もちろん、だからといって「AMIは幼児期のファンタジー絵本を推奨している」と結論づけることもできません。
AMIが現実を優先していることは明確です。
ただ、その原則を「擬人化された動物が登場したら、その本は選ばない」というところまで一律に広げるべきなのか。
そこには、もう少し丁寧に考えてよい余白がありそうです。
「子どもの空想」と「大人が与える物語」は分けて考えたい
ここでもう一つ、混同しないようにしておきたいことがあります。
ファンタジー絵本を幼児期に控えているモンテッソーリ教師が、子どもに「空想してはいけません」と言っているわけではありません。
子ども自身から自然に生まれる想像やごっこ遊びと、大人が選んで子どもに与える物語は、別の問題です。
AMIのQ&A「Imaginary Play」でも、幼児期には現実世界とのつながりを重視しながら、一方で子どもの想像遊びを否定したり、否定的な言葉をかけたりはしない、と説明されています。
また「Imagination and Fantasy」でも、6歳未満の子どもが架空の友達とお茶会をしている例が紹介されています。そこで「止めるのか」という問いへのAMIの回答はNOです。
大人はその子を観察し、必要に応じて会話や実生活の活動を通じ、現実世界とのつながりを支えていきます。
ですから、今回考えたいのは、子どもの空想を認めるか否かではありません。
大人が子どものために絵本を選ぶとき、「現実に基づいているか」という基準をどこまで適用するのか。
そこです。
AMIには「物語」の価値を語る声もあります
ここで興味深いAMI公式資料があります。
AMIの「Voices of AMI Training」に掲載された、AMI 3–6 TrainerのCipher Jiang Taoによる「Unleashing the Value of Stories in the Montessori Environment」です。
この論考では、0〜6歳の子どもたちも日々さまざまな形で物語を聞き、語っていること、そして物語が単なる娯楽ではなく、言語や想像、人生を理解する経験にもつながることが論じられています。
Children’s Houseについても、絵本や物語を読むこと、教師が物語を語ることに積極的に触れています。
そして、物語は3〜6歳のモンテッソーリ環境を構成する素晴らしい要素であるという考えまで示されています。
これは、「幼児期には現実を大切にする」というAMIの考え方を否定するものではありません。
むしろ興味深いのは、
現実を大切にする。
そして、
物語も大切にする。
という二つの考えが、必ずしも反対側に置かれていないことです。
「ファンタジー」というラベルだけで、本の中身は分かるでしょうか
例えば、動物が人間のように料理をする絵本があったとします。
設定だけを見れば、もちろん現実ではありません。
けれど、その物語の中で描かれているのが、材料を準備し、混ぜ、焼き、友達と食べ、最後に食器を片付ける生活だったらどうでしょう。
あるいは、動物たちが力を合わせる物語。
家族で仕事をする物語。
誰かを助ける物語。
失敗して、またやってみる物語。
登場人物が動物であるという一点だけを見れば「ファンタジー」です。
しかし、子どもがそこから出会うものまで、すべて現実から遠いとは限りません。
ファンタジーか、現実か。
その二つの箱だけで絵本を分類すると、一冊の作品の中にある言葉、絵、生活、ユーモア、感情、文化まで見えなくなってしまうことがあります。
「現実ではない」と「現実を混乱する」も同じではありません
もちろん、幼い子どもにとって現実と非現実の区別が、大人と同じようについているとは限りません。
だからこそ、モンテッソーリが幼児期の現実経験を大切にしてきたことには意味があります。
しかし、子どもの発達は「3歳の誕生日」「6歳の誕生日」を境に一斉に切り替わるものでもありません。
大切なのは、年齢だけでなく目の前の子どもを観察することではないでしょうか。
その子は今、現実世界そのものに十分な興味を持っているでしょうか。
物語を物語として楽しんでいるでしょうか。
読み終われば、また自分の生活へ戻っていくでしょうか。
そして何より、
その一冊は、その子に手渡したいと思えるほど素晴らしい絵本でしょうか。
「何歳からファンタジーOK」という新しいルールも作らない
ここで「では3歳になったらファンタジーを解禁しましょう」と結論づけてしまえば、今度は別のルールを作るだけになってしまいます。
AMIの資料からも、そのような線引きを導くことはできません。
むしろモンテッソーリ教育が繰り返し大切にしてきたのは、目の前にいる子どもを観察することです。
現実世界との豊かな経験を十分に用意する。
本物に触れる。
身体を使う。
生活に参加する。
その土台を大切にしながら、一冊の絵本についても、「ファンタジーだから」というラベルだけではなく、その作品そのものを見る。
そんな選び方があってもよいのではないでしょうか。
現実は、物語へ行かないための壁なのでしょうか
Sarah Werner Andrews(AMI 3–6 Trainer)は「Montessori, Imagination, and Young Children」の中で、モンテッソーリ教育が想像遊びを排除する教育であるかのように理解されてきたことそのものを取り上げています。
そこで論じられているのは、想像力には豊かな実生活の経験という確かな土台が必要であること。そして、子ども自身が探索し、試し、別の可能性を思い描くことも、その発達に含まれているということです。
つまり、
現実と想像は、必ずしも敵同士ではありません。
現実世界についてほとんど知らないまま、非現実の世界ばかりを大量に与えることと、現実をたっぷり生きている子どもが素晴らしい物語に出会うことも、同じではありません。
現実というしっかりした足場があるからこそ、その上で物語を楽しみ、想像し、そしてまた自分の生活へ戻ってくることができる。
そんな関係もあるはずです。
素晴らしい物語との出会いまで、閉じなくていい
「モンテッソーリでは、動物がしゃべる絵本はダメですか?」
AMIの資料を読み重ねても、この問いに単純な○か×をつけることはできません。
確認できるのは、AMIが幼児期の現実世界との豊かな経験を非常に大切にしていること。絵本についても、現実に基づくものを優先する考えを示していることです。
その一方で、子ども自身の想像を一律に否定しているわけではなく、3〜6歳の環境における物語の豊かさを積極的に語るAMIトレーナーもいます。
だからこそ、
「動物がしゃべるから」
という理由だけで一冊の絵本を閉じてしまう前に、その本をもう一度開いてみてもいいのではないでしょうか。
そこにはどんな絵があるでしょう。
どんな言葉があるでしょう。
どんな生活があり、どんなユーモアがあり、どんな感情が描かれているでしょう。
「現実を大切にする」というモンテッソーリの原則を大切にしながら、同時に、子どもが素晴らしい物語に出会う扉まで閉じないこと。
その二つの間には、もう少し豊かな余白があってもいいのかもしれません。
参考資料
Association Montessori Internationale, Questions & Answers
“Building Imagination on a Foundation of Reality”
AMI公式「Building Imagination on a Foundation of Reality」
Association Montessori Internationale, Questions & Answers
“Imagination and Fantasy”
AMI公式「Imagination and Fantasy」
Association Montessori Internationale, Questions & Answers
“Imaginary Play”
AMI公式「Imaginary Play」
Association Montessori Internationale, Voices of AMI Training
Cipher Jiang Tao, AMI 3–6 Trainer
“Unleashing the Value of Stories in the Montessori Environment”
AMI公式「Unleashing the Value of Stories in the Montessori Environment」
Association Montessori Internationale, Voices of AMI Training
Sarah Werner Andrews, AMI 3–6 Trainer
“Montessori, Imagination, and Young Children”
AMI公式「Montessori, Imagination, and Young Children」
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