「まだ早い」と決める前に。ICからプライマリーへ移るタイミングを考える

「最近、落ち着かなくなってきた」
「前はよく活動していたのに、いたずらのような行動が増えた」
「まだ小さいから、プライマリークラスへ移るのは早いのでは?」
インファント・コミュニティ(IC)からプライマリークラスへの移行を考える時期には、先生にも保護者にも、さまざまな迷いが生まれます。
一般的には、落ち着いていることや、トイレが完全に自立していることなどを「次のクラスへ進む準備」と考えがちです。
ところが、AMIトレーナーのジュディ・オライオンは、少し違う方向からこの問題を見ています。
子どもに問題が起きているのではなく、今いる環境が、すでにその子の発達上の必要に合わなくなっている可能性はないでしょうか。
ジュディは、少なくとも2003年のAMI Journalに掲載された論考の中で、ICからプライマリークラスへの移行について、この重要な問いを投げかけています。
今回お話を紹介するAMIトレーナー
Judi Orion(ジュディ・オライオン)
AMI Director of Pedagogy
AMI 3–6歳のディプロマを持ち、ローマで行われた最初のAMI 0–3歳トレーニングでディプロマを取得。0–3歳と3–6歳の両レベルでクラスを担当し、トレーナー、試験官、コンサルタントとして国際的に活動してきました。AMI初の0–6歳ディプロマコースでは、トレーニング責任者を務めています。
出典:Association Montessori Internationale(AMI)公式プロフィール
※人物イラストはAMI公式写真を参考に制作したイメージです。
「まだ準備ができていない」と判断する前に
ジュディは、長年にわたって、ICに留まった子どもたちの姿を見てきました。
それまで集中して活動し、落ち着いて過ごしていた子どもが、少しずつ活動への興味を失う。
目的なく歩き回ったり、物を乱雑に扱ったり、友達への好ましくない関わりが増えたりする。
そのような姿を見ると、大人は、
「まだプライマリーへ進める状態ではない」
「もう少しICで落ち着くのを待とう」
と考えるかもしれません。
しかしジュディは、そこで立ち止まります。
その行動は、次の環境へ進む準備ができていない証拠ではなく、今の環境では発達上の必要を満たせなくなっているサインかもしれない。
子どもの行動だけを見て判断するのではなく、子どもと環境との関係を見直す必要があるのです。
成長した子どもに、同じ環境が合い続けるとは限らない
モンテッソーリ教育でいう「整えられた環境」は、きれいに片づいた部屋という意味だけではありません。
その時期の子どもが必要としている活動、挑戦、ことば、人との関わりが用意され、自分の力を十分に使える環境です。
つまり、以前はその子にぴったりだった環境でも、成長によって合わなくなることがあります。
すでに長い実生活の活動に集中できる子どもが、何度も経験した簡単な活動ばかりを繰り返す。
ことばへの関心が高まっているのに、それを十分に使える活動が少ない。
より複雑な人間関係を求め始めているのに、環境がその要求に応えられない。
こうした状態が続くと、子どもは自分のエネルギーを向ける先を失います。
その結果として現れた落ち着きのなさを、子どもの性格や未熟さだけの問題と考えてしまうと、本当に必要な援助を見失ってしまいます。
プライマリーへ移る時期は、年齢だけでは決められない
では、何歳になったらプライマリークラスへ移るのでしょうか。
ジュディが大切にしているのは、決められた誕生日や学期ではなく、目の前の子どもを観察することです。
例えば、次のような変化が見られることがあります。
長い実生活の活動や言語活動に、繰り返し集中するようになった。
話しことばが豊かになり、友達との会話を楽しむようになった。
食事の場面で、以前より自分でできることが増えた。
ほかの子どもへの関心が高まり、より大きな集団との関わりを求め始めた。
ICに用意されている活動では、物足りなさを感じるようになった。
もちろん、一つの項目ができたから移行する、というチェックリストではありません。
その子が今、どのような活動に心を動かされ、どのような環境を求めているのか。
日々の姿を継続して観察しながら判断していきます。
トイレの完全な自立を、絶対条件にしない
クラスを移る際に、特に問題になりやすいのが排泄の自立です。
「一人で完全にトイレができなければ、プライマリーには進めない」と考える園もあるかもしれません。
しかしジュディは、排泄が完全に自立していないことだけを理由に、ほかの面では準備が整っている子どもをICに留めることに疑問を示しています。
排泄の自立へ向かう過程にあるか。
子ども自身が身体の感覚に気づき始めているか。
環境が変わることで、ほかの子どもの姿から学べる可能性はないか。
こうしたことも含めて、ICの先生、プライマリーの先生、保護者が話し合う必要があります。
これは、排泄の援助をしなくてもよいという意味ではありません。
一つの条件だけで子どもの発達全体を止めず、その子に必要な環境と援助を一緒に考えるということです。
「問題行動」ではなく、環境からのサインとして見る
物を投げる。
友達の活動を邪魔する。
教室の中を歩き回る。
大人の注意を引くような行動を繰り返す。
もちろん、危険な行動やほかの子どもを傷つける行動は、すぐに止めなければなりません。
その一方で、行動を止めるだけで終わらず、その背景も観察します。
活動が簡単すぎないか。
すでに十分に経験したものばかりになっていないか。
ことば、感覚、知性、社会性の新しい要求に、環境が応えているか。
次の環境へ進みたいという発達上の動きが始まっていないか。
子どもを困った存在として見るのではなく、行動を通して、今の環境では満たされていないものを伝えていると考えることができます。
移行は、ある日突然行うものではない
ジュディは、移行には柔軟な準備が必要だと述べています。
ICの先生とプライマリーの先生が、それぞれ別々に判断するのではなく、一緒に子どもを観察する。
プライマリーの先生がICで子どもの姿を見る。
子どもがプライマリークラスを短時間訪問する。
慣れてきたら、活動や昼食、外遊びなどを一緒に経験する。
保護者にも、二つの環境の違いを丁寧に伝える。
こうした小さな経験を重ねることで、移行は「突然知らない場所へ移される出来事」ではなくなります。
子ども自身が新しい環境を知り、そこにいる大人や子ども、活動に少しずつ親しむことができます。
大人の都合ではなく、子どもの発達を中心に考える
年度の区切り。
クラスの定員。
先生の配置。
保護者の希望。
集団を運営する以上、現実的な事情を完全になくすことはできません。
それでも、移行の判断をするときに中心に置きたいのは、子どもの発達です。
ジュディが投げかけているのは、単純に「早くプライマリーへ移しましょう」という提案ではありません。
準備が整った子どもを、大人側の予定や固定された条件によって、発達上の必要に合わなくなった環境へ長く留めていないだろうか。
この問いを、先生と保護者の双方が持つことです。
子どもが変わったとき、環境も変わる必要がある
子どもが昨日まで夢中になっていた活動に、今日は興味を示さない。
以前は満足していた環境の中で、落ち着かない姿が増えてきた。
それは、後戻りしているように見えるかもしれません。
けれど、その姿の奥では、次の発達へ向かう力が動き始めている可能性があります。
大切なのは、子どもを元の状態へ戻そうとすることだけではありません。
今の子どもに、今の環境が合っているかを、もう一度見直すこと。
子どもは成長します。
だからこそ、子どもを支える環境も、同じ場所に留まり続けることはできないのです。
参考資料・出典
Association Montessori Internationale(AMI)
Judi Orion 公式プロフィール
AMI公式プロフィールを見る
AMI Journal 2003/2–3
「Question and Answer: Transition from Infant Community to Primary」
Communication Order 467
AMI Journal収録情報を見る
Judith A. Orion「Transitions」
Montessori Guide掲載記事を見る
※本記事は、ジュディ・オライオン氏の論考をもとに、その主旨を日本の保護者や教育関係者にも読みやすい形で紹介したものです。特定の年齢で一律にクラス移行を勧めるものではありません。移行の時期は、子どもの発達、日々の観察、各園の環境や体制を踏まえ、関係する大人が相談して判断する必要があります。
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