泣いたらすぐに抱っこしていい?「甘やかす」と「応える」は同じではありません

赤ちゃんが泣くと、すぐに抱き上げたくなります。
ところが、周囲からこんなことを言われることがあります。
「泣くたびに抱っこしていたら、抱き癖がつくよ」
「少しくらい泣かせたほうが、自分で泣き止めるようになる」
「すぐ応えると、甘えん坊になってしまう」
抱っこしたい気持ちはあるけれど、このままでよいのか心配になる。反対に、しばらく待ってみても、泣き声を聞いているのがつらい。そんなふうに迷う保護者は少なくありません。
では、赤ちゃんが泣いたら、すぐに抱っこしてもよいのでしょうか。
幼い赤ちゃんの泣き声に応えることは、甘やかすことではありません。ただし「応える」とは、どんな泣き声にも反射的に同じ対応をすることでもありません。
まず赤ちゃんを見て、何を伝えようとしているのかを考え、そのとき必要な関わりを選ぶことです。
泣くことは、赤ちゃんの最初のコミュニケーション
まだ言葉を話せない赤ちゃんにとって、泣くことは大切な表現です。
おなかがすいた。
おむつが濡れて気持ちが悪い。
眠いのに眠れない。
暑い、寒い。
音や光、人の多さに疲れた。
身体に不快感がある。
誰かにそばにいてほしい。
赤ちゃんは、こうした状態を言葉で説明できません。その代わりに、泣き声や表情、身体の動きで周囲の大人へ知らせます。
AMI(国際モンテッソーリ協会)の乳幼児期に関する発信でも、子どものコミュニケーションは泣くことから始まり、やがて声、身振り、指さし、言葉へと広がっていくと説明されています。
泣くことは、大人を困らせるための行動ではありません。「今の私を見てほしい」という、赤ちゃんからの働きかけなのです。
幼い赤ちゃんは、抱っこで「甘やかされる」わけではありません
米国小児科学会は、生後数か月の赤ちゃんの泣き声には早めに応えることを勧めています。また、この時期の赤ちゃんは、大人が注意を向けたり抱いたりすることで甘やかされるものではないと説明しています。
赤ちゃんには、先のことを考えて大人を思いどおりに動かそうとする力はまだありません。泣けば抱いてもらえるように、大人を操作しているわけではないのです。
抱っこされると、赤ちゃんは大人の体温、声、匂い、呼吸、身体の支えを感じます。自分だけでは落ち着くことが難しい時期に、大人の身体を借りながら少しずつ穏やかな状態へ戻っていきます。
泣いたときに応えてもらう経験は、赤ちゃんに「この世界では、必要なときに誰かが来てくれる」と伝えます。抱っこは、泣き声に負けることではなく、赤ちゃんの必要に応じた援助の一つです。
「応える」ことは、毎回すぐに抱き上げることではない
赤ちゃんが泣いたら、必ず一秒でも早く抱き上げなければならない、という意味ではありません。
まず近くへ行き、顔を見て、「どうしたのかな」「ここにいるよ」と声をかけてみます。おむつ、空腹、室温、眠気、衣服の乱れなども確認します。
大人の顔を見たり、声を聞いたりすることで落ち着くこともあります。手を添えるだけで安心することもあれば、抱き上げてほしいと強く泣き続けることもあります。
抱っこが必要だと感じたら、「抱っこするね」と伝えてから、ゆっくり身体を支えて抱き上げます。突然持ち上げるのではなく、これから起きることを赤ちゃんへ知らせます。
つまり、
泣く → すぐ抱く
という決まった反応ではなく、
泣く → 大人が気づく → 観察する → 必要な方法で応える
というやり取りです。
すぐに泣き止ませることだけを目的にせず、「この子はいま、何を伝えているのだろう」と見ることが、モンテッソーリで大切にされる観察にもつながります。
泣き声を止めることより、赤ちゃんを理解すること
泣いている理由は、いつも分かるとは限りません。授乳もした、おむつも替えた、抱っこもしている。それでも泣き続けることがあります。
そんなとき、大人は「何がいけないのだろう」「早く泣き止ませなければ」と焦ります。
けれど、大人が応えれば、必ず赤ちゃんがすぐ泣き止むわけではありません。応えることと、泣き声を完全に止めることは別です。
理由が分からなくても、穏やかに抱き、声をかけ、そばにいることはできます。赤ちゃんが泣きながらも、大人に支えられている時間があります。
また、泣き方を少しずつ観察すると、その子なりの違いが見えてくることがあります。空腹のとき、眠いとき、刺激に疲れたときでは、声の強さや間、身体の動きが違うかもしれません。
何時頃に泣きやすいか、直前に何をしていたか、どのような関わりで落ち着いたかを見ることで、赤ちゃんの生活のリズムや、疲れのサインにも気づきやすくなります。
安心と自立は、反対ではありません
「自立した子に育てるためには、抱っこを減らしたほうがよい」と考えることがあります。
しかし、モンテッソーリにおける自立は、大人を必要としない状態を早くつくることではありません。AMIの「From Attachment to Independence」でも、子どもは応答的な養育を通して基本的な信頼を築き、そのうえで環境へ働きかける力と自信を育てていくと述べられています。
不安なときに戻れる人がいるから、赤ちゃんは安心して周囲を見られるようになります。やがて大人の腕から離れ、床の上へ手を伸ばし、自分で動き、少し遠くまで探索していきます。
抱っこに応えることは、自立を遅らせることではありません。必要なときに支えてもらえるという信頼が、子どもが自分から世界へ向かっていくための足場になります。
一方で、赤ちゃんが機嫌よく一人で周囲を見たり、手足を動かしたりしているときまで、常に抱いている必要はありません。安心して探索しているときは、その姿をそばで見守ります。
抱くことと離れることを、大人の予定だけで決めるのではなく、赤ちゃんの状態を見ながら調整していくことが大切です。
大人がつらくなったときは、いったん離れても大丈夫
赤ちゃんが何をしても泣き止まないと、大人も疲れ、焦りや苛立ちを感じます。それは珍しいことではありません。
もし「もう抱いていられない」「強く揺さぶってしまいそう」と感じたら、赤ちゃんを安全なベビーベッドなどへ仰向けに寝かせ、いったんその場を離れてください。深呼吸をし、家族や周囲の人に助けを求めます。
赤ちゃんを安全な場所へ置いて、大人が数分間落ち着くことは、赤ちゃんを見捨てることではありません。安全を守るために必要な対応です。どのような場合でも、赤ちゃんを激しく揺さぶってはいけません。
また、いつもと違う泣き方が続く、どうしても泣き止まない、授乳やミルクを受けつけない、反応が弱い、呼吸が苦しそうなどの様子がある場合は、病気や身体の不調も考えて医療機関へ相談してください。生後3か月未満で38度以上の発熱がある場合には、速やかな受診が必要です。
抱っこの前にあるもの
「泣いたら、すぐに抱っこしていい?」という問いへの答えは、「幼い赤ちゃんの泣き声には、安心して応えてよい」です。
ただし、本当に大切なのは、抱っこまでの速さを競うことではありません。
泣き声に気づく。
赤ちゃんのそばへ行く。
顔や身体の様子を見る。
穏やかに声をかける。
必要なら抱き上げる。
この一連のやり取りそのものが、赤ちゃんへの応答です。
甘やかすとは、子どもが自分でできることまで大人が代わりにしてしまったり、必要な限界を示さなかったりすることです。まだ自分だけでは不快や不安を整えられない赤ちゃんを抱くこととは違います。
抱っこは、赤ちゃんを依存させるためのものではありません。「あなたの声を聞いているよ」「必要なときには、そばにいるよ」と伝える、言葉になる前の対話なのです。
参考資料
- AMI「From Attachment to Independence」
- AMI「Attunement and Montessori」
- AMI「The Development of Independence in the First 3 Years of Life」
- American Academy of Pediatrics「Responding to Your Baby’s Cries」
- Harvard Center on the Developing Child「Serve and Return」
- NHS「Soothing a crying baby」
赤ちゃんが過ごすモンテッソーリの環境を実際に見ながら、運動、食事、睡眠、ことばなど、この時期の発達と家庭での関わり方を学ぶ全3回のクラスです。
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