なかなか前に進まないけれど大丈夫?――ずりばいが始まるまでの試行錯誤

目の前のおもちゃに手を伸ばしているのに、なぜか身体は後ろへ下がっていく。
足を一生懸命に動かしているけれど、その場でくるくる回るばかり。
赤ちゃんのそんな姿を見ていると、
「前に進めなくて困っているのかな」
「足の裏を押してあげたほうがいい?」
「同じ月齢の子は、もうずりばいをしているのに」
と、心配になることがあります。
けれど、前に進まない動きも、ずりばいが始まるまでの大切な試行錯誤です。赤ちゃんは失敗しているのではなく、自分の身体と床との関係を、動きながら確かめています。
AMI(国際モンテッソーリ協会)が保護者に向けて発信している「Aid to Life」でも、赤ちゃんの運動発達を急がせるのではなく、自分で自由に動ける環境を整えることが大切にされています。
「前に進まない」は、失敗ではありません
うつ伏せになった赤ちゃんは、目の前にある物へ手を伸ばそうとします。
腕で床を押す。
足を曲げたり伸ばしたりする。
身体を左右へ揺らす。
おなかを中心にして向きを変える。
ところが、腕で床を強く押すと、身体は前ではなく後ろへ下がることがあります。進みたい方向とは反対へ動いてしまい、赤ちゃん自身も不思議そうな顔をするかもしれません。
それでも赤ちゃんは、同じ動きを何度も繰り返します。
「腕で押すと身体が動く」
「片方の足に力を入れると向きが変わる」
「身体を傾けると、もう少し遠くまで手が届く」
こうした発見が少しずつ重なり、やがて腕と足の動きがつながっていきます。後ろへ下がることも、その場で回ることも、前へ進むための準備なのです。
ずりばいの形は、一人ひとり違います
一般に「ずりばい」と呼ばれるのは、おなかを床につけたまま、腕や足を使って身体を移動させる動きです。
けれど、その動き方には一つの正解があるわけではありません。
両腕で身体を引き寄せる赤ちゃんもいれば、片方の足を強く使って進む赤ちゃんもいます。後ろへ下がる時期が長い子、その場で方向転換を繰り返す子、ずりばいをほとんどせずに四つばいへ移る子もいます。
発達の順番や速さには個人差があります。「何か月になったら、必ずずりばいをする」というものではありません。
ずりばいをしないからといって、すぐに問題があるということでもありません。大切なのは、決められた形に当てはめることではなく、その子が今、どのように身体を使おうとしているのかを見ることです。
手や足を引っ張って、進ませなくても大丈夫
赤ちゃんが前へ進めずにいると、手を引いたり、足の裏を押したりして、ずりばいの動きを教えたくなることがあります。
けれど、赤ちゃんが必要としているのは、正しい動かし方を大人に教えてもらうことではありません。
自分で力を入れ、思いがけず身体が動き、その結果をもう一度試してみることです。
大人が身体を動かしてしまえば、赤ちゃんは前へ進めるかもしれません。しかしそれは、赤ちゃん自身が動きを発見したこととは異なります。
すぐに助けるのではなく、安全を確保したうえで、まずは赤ちゃんの試行錯誤を少し待ってみましょう。
「少しだけ届かない」が、動くきっかけになります
Aid to Lifeでは、赤ちゃんが興味をもった物を、手を伸ばせばもう少しで届きそうな場所へ置くことが勧められています。
たとえば、ゆっくり転がる布製のボールや、赤ちゃんが握りやすい軽いおもちゃです。
すぐ手元へ渡すのではなく、ほんの少しだけ離して置いてみます。赤ちゃんは腕を伸ばしたり、身体を傾けたり、足で床を押したりしながら、近づく方法を探し始めます。
ただし、遠くへ置いて頑張らせることが目的ではありません。
何度試しても届かず、赤ちゃんが疲れたり、強く泣いたりしているなら、おもちゃを近づけてかまいません。「できるまで取らせない」という練習にしてしまうと、自由な探索ではなくなってしまいます。
赤ちゃんの表情を見ながら、「もう少し試してみたい」と思える距離を探してみてください。
自由に動ける床を用意しましょう
ずりばいが始まるためには、赤ちゃんが自分の身体を自由に動かせる時間と場所が必要です。
Aid to Lifeが勧めているのは、身体が深く沈み込まない、薄手の運動マットです。柔らかなベッドやソファの上よりも、手や足で押した力が返ってくる、平らで安定した床面が適しています。
また、厚着や動きを妨げる衣服を避け、腕や足を曲げ伸ばししやすくしておくことも大切です。
赤ちゃんが動き始めると、思っていたより遠くまで移動することがあります。床に小さな物やコード、口に入る危険のある物がないかを確認し、家具の角や段差にも注意しましょう。
歩行器や長時間身体を固定する育児用品に頼るよりも、床の上で自由に動ける時間を毎日の生活の中につくることが、赤ちゃん自身の運動を支えます。
比べるなら、ほかの赤ちゃんではなく昨日の姿と
同じ月齢の赤ちゃんが、ずりばいでどんどん進んでいるのを見ると、どうしても比べたくなります。
けれど、発達の道筋は一人ひとり違います。
昨日より長く顔を上げていた。
少し遠くまで手を伸ばした。
身体の向きを自分で変えた。
後ろへ下がったあと、もう一度おもちゃを取ろうとした。
前へ進んだ距離だけではなく、こうした小さな変化にも目を向けてみてください。赤ちゃんの身体の中では、次の動きへ向かう準備が進んでいます。
一方で、身体の片側だけを極端に使う状態が続く、一方の腕や足をほとんど動かさない、以前できていた動きが見られなくなったなど、気になる様子がある場合は、小児科医や健診の際に相談してください。
「自分で動けた」という発見を待つ
ずりばいが始まる前の赤ちゃんは、何度も手を伸ばし、床を押し、後ろへ下がり、向きを変えています。
大人から見ると、なかなか前へ進まない時間かもしれません。けれど赤ちゃんにとっては、自分の身体を自分の意思で動かす方法を探している時間です。
そしてある日、伸ばした手と足の力が偶然つながり、身体がほんの少し前へ動きます。
その一歩は、大人に動かしてもらったものではありません。赤ちゃん自身が、たくさんの試行錯誤の末に見つけた動きです。
早くずりばいをさせることよりも、安心して何度でも試せる床と時間を用意すること。それが、この時期に大人ができる大切な援助です。
参考資料
- Aid to Life「動きに関する10のヒント」
- Aid to Life「運動マット」
- American Academy of Pediatrics “Crawling Styles”
- American Academy of Pediatrics “Movement: 8 to 12 Months”
赤ちゃんが過ごすモンテッソーリの環境を実際に見ながら、運動、食事、睡眠、ことばなど、この時期の発達と家庭での関わり方を学ぶ全3回のクラスです。
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