まだ話せない赤ちゃんに、返事は必要? – 喃語から始まる最初の会話

赤ちゃんがこちらを見ながら、「あー」「うー」「ばばばば」と声を出すことがあります。
まだ意味のある言葉ではないように聞こえるので、「何と返したらいいのだろう」と迷うこともあるでしょう。
同じ音をまねすればいいのか。大人の言葉で話しかけたほうがいいのか。それとも、一人で声を出しているだけだから、そっとしておけばいいのか。
実は、赤ちゃんが声を出し、それに大人が応える時間は、言葉を話し始めるよりずっと前から行われている「最初の会話」です。
AMI(国際モンテッソーリ協会)では、赤ちゃんは周囲で交わされる言葉を受け身で聞いているだけではなく、人の声や口の動き、表情、身振りを吸収しながら、自分もコミュニケーションに加わろうとしていると考えます。
喃語は、意味のない声ではありません
赤ちゃんが発する「あー」「うー」「ままま」「ばばば」といった声は、喃語と呼ばれます。
まだ特定の物や人を表す言葉ではないことが多いものの、赤ちゃんは声を出しながら、唇や舌、あごを動かし、自分の身体からさまざまな音が生まれることを確かめています。
うれしいときの高い声。何かを求めるときの強い声。大人の顔を見ながら出す声。一人で繰り返し楽しんでいる声。
同じ「あー」に聞こえても、表情や視線、身体の動きまで見ると、それぞれに違いがあります。
泣くことから始まった赤ちゃんの表現は、やがて声、笑顔、視線、手を伸ばす動き、指さしへと広がっていきます。言葉になる前にも、赤ちゃんはすでに多くの方法で周囲の人へ働きかけているのです。
赤ちゃんが声を出したら、少し待って返してみる
赤ちゃんがこちらを見て「あー」と声を出したら、まずその顔を見てみましょう。そして、すぐにたくさんの言葉を重ねるのではなく、ひと呼吸おいてから返します。
「あー」
「お話ししているのね」
「葉っぱが揺れているね」
そのときの赤ちゃんの声や視線に合った、短い返事で十分です。返したあとは、もう一度待ちます。
すると赤ちゃんが再び声を出したり、口を動かしたり、笑ったりすることがあります。大人が応え、赤ちゃんがまた応える。この往復が会話の原型です。
発達研究では、赤ちゃんが声や表情、身振りで働きかけ、大人がそれに応えるやり取りを「サーブ・アンド・リターン」と表現します。テニスのボールを打ち返すように、赤ちゃんと大人の間で反応が行き来することが、コミュニケーションの基礎をつくります。
大切なのは、大人が一方的に話し続けることではありません。赤ちゃんが返すための間を残すことです。
喃語をまねしても、大人の言葉で返してもいい
赤ちゃんの声をそのまままねして返すと、赤ちゃんは「自分の声が届いた」と感じやすくなります。
赤ちゃんが「ばばば」と言ったら、大人も「ばばば」と返してみる。そのあとで、「ボールがあるね」など、その場に合う短い言葉を添えることもできます。
ただし、大人までいつも赤ちゃんのような話し方をする必要はありません。
赤ちゃんは、これから身につける言葉の音やリズムを周囲の大人から吸収しています。無理に高い声や大げさな言い方をつくるより、穏やかで明瞭な声で、実際の物や出来事に結びついた言葉を届けることが大切です。
「わんわん」だけで終わらせず、「犬が歩いているね」。
「ブーブー」だけでなく、「赤い車が来たね」。
赤ちゃんに分かりやすい短さを意識しながら、本当の言葉も一緒に伝えていきます。
一日中、話しかけ続けなくても大丈夫です
言葉の発達によいと聞くと、起きている間はずっと話しかけなければならないように感じるかもしれません。
けれど、赤ちゃんにも静かに周囲を見たり、自分の声を試したり、一つの物に注意を向けたりする時間があります。
一人で機嫌よく声を出しているときに、毎回大人が会話へ引き込む必要はありません。赤ちゃんがこちらを見て働きかけてきたときや、何かを一緒に見ているときに、自然に応えればよいのです。
おむつを替えるとき。服を着替えるとき。抱き上げるとき。食事をするとき。散歩をしているとき。
特別な言葉の教材を用意しなくても、毎日のお世話の中には言葉を交わす機会がたくさんあります。
「今からおむつを替えるね」
「右の腕を通します」
「冷たい風が吹いてきたね」
赤ちゃんが実際に経験していることに言葉を添えると、聞こえてくる音と、身体の感覚や目の前の出来事が少しずつ結びついていきます。
質問ばかりにしないことも大切です
赤ちゃんとの会話では、つい「これは何?」「ワンワンはどこ?」「言ってごらん」と、答えを求めたくなることがあります。
しかし、まだ言葉を吸収している時期の赤ちゃんに必要なのは、正解を求められることよりも、目の前の世界に言葉が添えられる経験です。
「これは花だよ」
「黄色い花が咲いているね」
「猫が歩いていったね」
と、大人が自然に言葉を渡していきます。
赤ちゃんが言い間違えたように聞こえても、発音を細かく直す必要はありません。たとえば赤ちゃんがボールを見て「ぼ」と言ったら、「そう、ボールだね」と正しい言葉を自然に返します。
無理に言わせたり、何度も繰り返させたりするのではなく、赤ちゃんの表現を受け止めながら、少しだけ豊かな言葉にして返すのです。
声だけが会話ではありません
赤ちゃんから返事がないように見えても、何も受け取っていないとは限りません。
大人の顔を見る。口元をじっと見つめる。手足を動かす。身体を大人のほうへ向ける。声を聞いて表情を変える。
これらも、赤ちゃんからの返事です。
大人が「言葉を教えよう」とすると、話した言葉の数ばかりに意識が向きます。しかし会話は、言葉を一方的に浴びせることではありません。
赤ちゃんが何を見ているのか。どんな声を出しているのか。どのような表情でこちらを見ているのか。
まず観察し、その働きかけを受け取ることから始まります。
「あなたの声が届いた」と伝える
赤ちゃんは、ある日突然、言葉を話し始めるわけではありません。
泣く。見つめる。声を出す。大人の返事を待つ。そして、もう一度声を返す。
こうした小さなやり取りを積み重ねながら、「声を出すと誰かが応えてくれる」「人と気持ちを交わすことができる」と知っていきます。
喃語に返事をする目的は、早く話せるように訓練することではありません。
赤ちゃんの声を聞き、表情を見て、少し待ってから返す。それは、赤ちゃんに「あなたの声は、ちゃんとここへ届いている」と伝えることです。
言葉になる前の会話を丁寧に重ねることが、やがて赤ちゃんが自分の思いや願いを言葉で伝えていくための土台になります。
なお、声や大きな音への反応がほとんど見られない、以前見られた発声や反応がなくなったなど、聞こえや発達について気になることがある場合は、月齢だけで判断せず、健診や小児科で相談してください。
参考資料
- AMI Questions & Answers「Their First Words」
- AMI Voices of AMI Training「The Development of Independence in the First 3 Years of Life」
- Harvard Center on the Developing Child「Serve and Return」
- NIDCD「Speech and Language Developmental Milestones」
- CDC「Milestones by 6 Months」
赤ちゃんが過ごすモンテッソーリの環境を実際に見ながら、運動、食事、睡眠、ことばなど、この時期の発達と家庭での関わり方を学ぶ全3回のクラスです。
-
-
2026.09.05カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て
泣いたらすぐに抱っこしていい?「甘やかす」と「応える」は同じではありません
-
-
2026.09.05カテゴリ / コラム BOOKS
『月刊クーヨン』2026年10月号「かんしゃく」にだって理由があります 子どもの「やりたい!」を邪魔していませんか?
-
-
2026.09.05カテゴリ / コラム
「うちの子は集中力がない」と思うママへ ― 短い集中に気づいていますか?
-
-
2026.09.04カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て
まだ話せない赤ちゃんに、返事は必要? – 喃語から始まる最初の会話
-
-
2026.09.04カテゴリ / コラム
モンテッソーリ教育のデメリットは本当? – 根拠のない情報が何年も繰り返される理由
-
-
2026.09.03カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て
なかなか前に進まないけれど大丈夫?――ずりばいが始まるまでの試行錯誤