カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

子どもが「話を聞かない」とき、実は「考えられない状態」なのかもしれない

「何度言ったら分かるの?」
「ちゃんと話を聞いて」
「どうしてそんなことをしたの?」

子どもが激しく怒ったり、泣いたり、興奮したりしているとき、大人はなんとか言葉で伝えようとします。
でも、その子は本当に「話を聞こうとしていない」のでしょうか。

もしかすると、その瞬間は「考えたくない」のではなく、「考えること自体が難しい状態」なのかもしれません。

2026年、Bernadette Phillips氏による研究では、トラウマの影響を受けた子どもを支える教育的アプローチのひとつであるNeurosequential Model in Education(NME)と、モンテッソーリ教育との共通点が検討されました。

その中で重要になるのが、NMEの「3R」と呼ばれる順番です。

Regulate(整える)

Relate(つながる)

Reason(考える)

大人はつい「考える」ことから求めてしまう

子どもが何か問題を起こしたとき、私たち大人はすぐに言葉で解決しようとしがちです。

「なぜやったの?」
「どうすればよかったと思う?」
「相手はどんな気持ちだった?」

どれも、落ち着いているときには大切な問いです。
でも、子どもが強い不安やストレスの中にいて、自分自身を調整できていないとしたら、その問いに答えるための「考える」という段階まで、まだたどり着いていない可能性があります。

だから順番は、いきなりReasonではありません。

まずRegulate。
その次にRelate。
そして最後にReason。

この順番から子どもの姿を見ると、「何度言っても聞かない」という場面の見え方が少し変わってきます。

Regulate ― まず、自分を整える

Regulateとは、大人が「落ち着きなさい」と言って子どもを静かにさせることではありません。

今回の研究でPhillips氏が注目したもののひとつが、モンテッソーリ環境にたくさん存在する反復的でリズミカルな活動です。

水を注ぐ。
物を運ぶ。
磨く。
並べる。
数える。
文字をなぞる。

モンテッソーリの環境では、子どもは自分で活動を選び、手や身体を使い、ときには同じことを何度も繰り返します。
大人から見ると「また同じことをしている」と感じることもありますが、子どもにとってその繰り返しには意味があります。

研究では、実生活、感覚、算数、言語、文化などの活動に含まれる反復的・リズミカルな動きと、NMEが重視する自己調整との間にある共通点が検討されています。

モンテッソーリで昔から大切にされてきた「繰り返し」や「集中」を、別の角度から見ることのできる興味深い視点です。

Relate ― 整ったら、人とつながる

二つ目はRelate。人とのつながりです。

研究では、モンテッソーリ環境における教師と子どもの関係、異年齢の集団、子ども同士の教え合いなどにも注目しています。

モンテッソーリの教師は、常に子どもへ指示を出し続ける存在ではありません。
子どもを観察し、必要なときに援助し、自分でできるようになれば一歩退きます。

そして教室には異なる年齢の子どもたちがいます。
小さい子は大きい子の姿を見て、大きい子は小さい子を助けることがあります。

教師との一対一の関係だけではなく、教室という小さな社会の中に、さまざまな「つながり」があります。

Reason ― そして、ようやく「どうして?」を考える

子ども自身が少し落ち着き、人とのつながりを取り戻してから、ようやくReasonです。

「何があったの?」
「どうしたかったの?」
「次はどうしようか?」

同じ言葉でも、子どもの状態によって届き方は大きく変わります。

強く興奮している最中には何を聞いても答えられなかった子が、しばらくしてから突然「あのね……」と話し始めることがあります。

大人の言葉が足りなかったのではなく、その言葉を受け取って考えられる状態になるまで、時間が必要だったのかもしれません。

では、癇癪の真っ最中ならどうする?

ここまで読むと、「では、実際に子どもが床で泣き叫んでいるときはどうしたらいいの?」と思うかもしれません。

今回の研究は、癇癪への具体的な対応方法そのものを検証した研究ではありません。ここからは、Regulate → Relate → Reasonという順番を日常の場面に置き換えて考えてみます。

まず必要なのは、説得や質問よりも安全の確保です。
危険な物があれば遠ざける。周囲の刺激をできるだけ減らす。大人自身も声や動きを落ち着かせる。そして、言葉をたくさん重ねすぎない。

「ここにいるよ」
「落ち着いてから話そう」

そのくらいの短い言葉で十分なこともあります。

抱っこを求める子もいれば、興奮しているときに身体へ触れられることを嫌がる子もいます。
「癇癪には必ずこれをする」という方法ではなく、普段その子がどのように自分を整えているのかを見ることが大切です。

少し落ち着いてきたら、次はRelateです。
そばにいる。一緒に少し歩く。安心できる大人とのつながりを取り戻す。

そして、子どもの声や身体の動きが落ち着き、こちらの言葉を受け取れるようになってから、ようやくReasonへ進みます。

「さっき、使いたかったんだね」
「でも、投げると危ないね」
「次はどうしようか」

何が起きたのかを振り返ったり、次にどうするかを一緒に考えたりするのは、そのタイミングです。

癇癪が終わったあとこそ「観察」する

そしてモンテッソーリの視点で大切にしたいのは、癇癪を止めることだけではありません。

落ち着いたあとに、少し離れてその出来事を振り返ってみます。

「何の直前に崩れたのだろう?」
「疲れていなかっただろうか?」
「自分でやりたかったのではないか?」
「活動を突然中断されなかったか?」
「周囲の刺激が強すぎなかったか?」
「同じ状況で何度も起きていないだろうか?」

モンテッソーリ教育では、大人が子どもの行動をすぐに評価するのではなく、まず観察することを大切にします。

「この子は癇癪を起こす子」と決めるのではなく、どんな環境で、どんな出来事のあとに、どのような反応が起きているのかを見る。
そこから、環境や大人の関わり方を変えられることもあります。

「言うことを聞かない子」と決める前に

何度説明しても聞かない。
こちらを無視する。
話し合おうとしても逃げてしまう。

そんな姿を見ると、大人はどうしても「この子は言うことを聞かない」と考えてしまいます。

でも、その前に一度、「この子はいま、考えられる状態だろうか?」と考えてみる。

これは、子どもの行動を何でも許すという意味ではありません。危険な行動を止めたり、他の人を守ったりすることは必要です。
ただ、行動を止めることと、その理由について話し合うことは、必ずしも同時でなくてもいいのです。

まず安全を確保する。
自分を整える。
人とつながる。
そして、考える。

Regulate → Relate → Reason

この順番を知っているだけでも、大人が子どもを見る目は少し変わるかもしれません。

100年以上前の「観察」と、現在の研究

今回の研究でもう一つ興味深いのは、モンテッソーリ教育が神経科学をもとにつくられた教育法ではないということです。

マリア・モンテッソーリが見ていたのは、目の前の子どもでした。

どんなときに落ち着くのか。
何を繰り返すのか。
どんなときに深く集中するのか。
どのくらい大人が援助すると、自分でできるようになるのか。
どんな環境なら、自分から活動し始めるのか。

そうした観察から形づくられてきたモンテッソーリ教育を、100年以上が経った現在、研究者が神経科学を背景とした教育モデルと照らし合わせています。

そこに共通するテーマが見えてきたというところが、今回のResearch Threadsの面白さです。

ただし「モンテッソーリがトラウマを治す」と証明した研究ではありません

ここは、この研究を紹介するうえでとても重要です。

今回の論文は、モンテッソーリ教育を受けた子どもと、そうでない子どもを比較して、トラウマからの回復を測定した実験研究ではありません。
Phillips氏は、NMEの「Regulate, Relate and Reason」とモンテッソーリ教育を比較し、両者の間にどのような共通するテーマがあるのかを分析しています。

したがって、この研究から「モンテッソーリ教育にはトラウマを治療する効果がある」と結論づけることはできません。

研究が示しているのは、現在のトラウマ・インフォームドな教育の考え方と、モンテッソーリ教育の中に、検討する価値のある共通点が見られるということです。

「何を言えばいい?」の前に

子どもが荒れているとき、大人はどうしても「何を言えば分かってくれるだろう」と考えます。

でも、その前に見るものがあります。

この子はいま、自分を整えられているだろうか。
安心して誰かとつながれているだろうか。
そして、いま本当に「考えられる状態」だろうか。

子どもが「話を聞かない」ように見えるとき。
もしかすると、こちらの話を拒否しているのではなく、まだその言葉を受け取って考えられるところまで戻ってきていないのかもしれません。

まず、整える。
そして、つながる。
考えるのは、そのあとです。

参考資料

Association Montessori Internationale
“Montessori Approach To Healing Trauma”
Research Threads, 9 July 2026
AMI Research Threads「Montessori Approach To Healing Trauma」

Phillips, B. (2026)
“Does the Montessori Approach To Healing Trauma-Affected Children Align with the ‘Regulate, Relate, and Reason’ Phase of the NME? A Thematic Analysis.”
Journal of Child & Adolescent Trauma, 19(1), 135–145.
PubMedで論文情報を見る

2026.08.23カテゴリ / コラム

モンテッソーリって、実は「平和教育」なんです。

2026.08.23カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

子どもが「話を聞かない」とき、実は「考えられない状態」なのかもしれない

2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

教室も教具も十分でない地域に、モンテッソーリは届くのか? – 複式学級から考える教育の可能性

2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

モンテッソーリ建築が世界的建築賞を受賞 – タンザニアの学校に生かされた28のデザイン原則

2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

名門アヤックスの育成現場で出会ったモンテッソーリ – AMIが広げる「モンテッソーリスポーツ」とは

2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究

世界初は日本にあった。モンテッソーリが認知症・高齢者ケアにも広がっている