名門アヤックスの育成現場で出会ったモンテッソーリ – AMIが広げる「モンテッソーリスポーツ」とは

「モンテッソーリ教育」と「スポーツ」。
一見すると、あまり結びつかないように感じるかもしれません。静かに教具へ取り組む教室と、走り、競い、チームで勝利を目指すスポーツの世界。ところが現在、国際モンテッソーリ協会(AMI)は、スポーツをモンテッソーリ教育の新しい実践領域の一つとして位置づけています。
その取り組みの背景には、世界的なサッカークラブ、アヤックス・アムステルダムの育成現場で生まれた出会いがありました。
アヤックスの育成コーチが出会ったモンテッソーリ教育
AMIが2020年8月6日に公開した公式記事によると、Montessori Sportsの共同創設者であるルーベン・ヨンクキント氏は、アヤックス・アムステルダムの育成組織でコーチをしていた時期に、モンテッソーリ教育と出会いました。
そこでAMI事務局長のリン・ローレンス氏とつながり、子どもを中心に置くモンテッソーリの考え方を、スポーツの指導環境にも取り入れ始めます。
その後、ヨンクキント氏とパトリック・オウデヤンス氏が設立したMontessori Sportsは、AMIとの連携を進め、2019年に両者のパートナーシップが正式に結ばれました。翌2020年、AMIはこの提携と、スポーツ指導者や教育者、保護者が学べるオンラインプラットフォームの開始を公式に発表しました。
スポーツでも、中心にいるのは子ども
一般的なスポーツ指導では、試合に勝つこと、技術を早く身につけること、指導者の指示どおりに動くことが優先される場合があります。
Montessori Sportsが目指すのは、スポーツを子どもの全人的な発達を支える環境として捉え直すことです。
大人が一方的に答えを与えるのではなく、子ども自身が考え、選び、試し、結果から学ぶ。年齢や発達段階、身体的な能力、経験の違いを観察し、それぞれの子どもが自分のペースで成長できる環境を用意します。
これは教室の中で行われているモンテッソーリ教育と、基本的に同じ考え方です。教具の代わりにボールやコートがあり、個人の活動だけでなく、仲間との協働や対戦を通して自分自身を育てていきます。
競争をなくすのではなく、捉え直す
モンテッソーリスポーツは、試合や競争そのものを否定する考え方ではありません。
AMI公式の「Voices of AMI Training」では、競争を「何が何でも相手に勝つこと」だけで捉えず、個人やチームが目の前の課題を乗り越える過程として捉えています。
試合の結果は、子どもの価値を決めるものではなく、自分たちの取り組み方や作戦を振り返るための情報になります。うまくいかなかった理由を考え、もう一度試すことができるという点では、モンテッソーリ教具に備わる「誤りの訂正」にも通じます。
自分で立てた目標へ向かうこと、以前の自分より上達すること、仲間と協力して課題を解決すること。その過程で子どもは、身体能力だけでなく、感情を調整する力、協働する力、責任感、粘り強さなどを身につけていきます。
マリア・モンテッソーリもスポーツに言及していた
スポーツへの応用は、モンテッソーリの名前を使って後から作られた、まったく無関係な考え方ではありません。
マリア・モンテッソーリは『吸収する精神』の中で、テニスやサッカーなどの楽しさは、単にボールを正確に動かすことだけではなく、それまで持っていなかった新しい技能を獲得し、自分の能力が高まることにあると述べています。
また『子どもの発見』では、組織されたゲームには、物を正確に扱うこと、集中すること、自分の動きをコントロールすることが求められ、競争も人間の成長に関わる経験になり得ると論じています。
子どもが自分の身体を意志どおりに動かし、少しずつ能力を洗練させていくことは、モンテッソーリ教育が大切にしてきた「運動の発達」や「自己完成への欲求」と深くつながっています。
AMI認定のスポーツコースが世界へ
現在、AMIには「Montessori Sports Fundamentals Certificate」という認定コースがあります。
これは、モンテッソーリの環境にスポーツを取り入れるための基本的な知識を学ぶ40時間のコースで、教員だけでなく、スポーツコーチや学校の運営者なども対象としています。
AMIの2024年年次報告では、オンラインおよびブレンデッド形式のSports Fundamentals Courseに、80か国以上から1,500人を超える受講者が参加したと報告されています。2024年には、オランダのアムステルダムで初めてMontessori Sports Summitも開催されました。
さらにAMIの2025年年次報告によると、2025年には400人を超える教育者、コーチ、学校関係者が同コースへ参加。学校全体で継続的に導入するための研修・メンタリングプログラムも始まり、17か国の30校が参加しました。
同年には、8か国を超える国々から子どもと家族が集まる初の国際フットボールキャンプも開催されています。
スポーツを通して、平和を学ぶ
AMIがモンテッソーリスポーツに期待しているのは、子どもの運動能力を高めることだけではありません。
スポーツには、異なる背景や能力を持つ子どもたちが同じ場所に集まり、共通のルールのもとで協力する力があります。相手を尊重し、自分の感情を調整し、勝ったときにも負けたときにも、次に何ができるかを考える経験になります。
Montessori Sportsは、子どもの自律、インクルーシブな参加、協働、回復する力、健全な競争を重視しています。AMIはこれを、スポーツを通した発達と平和への取り組みとして紹介しています。
「勝つ子ども」をつくるのではなく、自分で考え、仲間と力を合わせ、成功にも失敗にも向き合える人を育てること。スポーツもまた、子どもが自分自身をつくっていくための「援助」として捉えることができるのです。
教室の外にも広がるモンテッソーリ
モンテッソーリ教育は、教室の中で教具に取り組む時間だけを指すものではありません。
高齢者・認知症ケア、建築、地域支援、平和教育、そしてスポーツへ。AMIは、人間の尊厳と自律を支えるモンテッソーリの考え方を、社会のさまざまな領域へ広げています。
子どもがボールを追い、仲間と作戦を考え、失敗を振り返り、もう一度挑戦する。その姿にも、モンテッソーリが見つめてきた自己形成の過程があります。
スポーツの世界でも、大人が教えることからではなく、子どもを観察することから始める。モンテッソーリスポーツは、これまでの子どものスポーツ指導を考え直す、新しい視点を示しています。
参考資料・出典
Association Montessori Internationale「AMI Partners with Montessori Sports」
Association Montessori Internationale「Sport as an Aid to Life, Movement and Community」
Association Montessori Internationale「AMI Montessori Sports Fundamentals Certificate」
Association Montessori Internationale「AMI Annual Report 2024」
Association Montessori Internationale「AMI Annual Report 2025」
-
-
2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究
教室も教具も十分でない地域に、モンテッソーリは届くのか? – 複式学級から考える教育の可能性
-
-
2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究
モンテッソーリ建築が世界的建築賞を受賞 – タンザニアの学校に生かされた28のデザイン原則
-
-
2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究
名門アヤックスの育成現場で出会ったモンテッソーリ – AMIが広げる「モンテッソーリスポーツ」とは
-
-
2026.08.22カテゴリ / コラム 世界のモンテッソーリ研究
世界初は日本にあった。モンテッソーリが認知症・高齢者ケアにも広がっている
-
-
2026.08.22カテゴリ / コラム AMIトレーナーの言葉
3年目に子どもは何を得るのか – サンドラ・ジラート先生が語る、子どもの家の3年サイクル
-
-
2026.08.21カテゴリ / コラム 赤ちゃんの発達と子育て
赤ちゃんが寝ないときは?寝かしつけ前に見直したい生活リズムと眠る環境