教室も教具も十分でない地域に、モンテッソーリは届くのか? – 複式学級から考える教育の可能性

離島の小規模校における複式学級をイメージした画像
世界には、ひとつの教室で異なる学年の子どもたちが一緒に学ぶ学校があります。
1年生だけのクラス、2年生だけのクラスと分けるのではなく、年齢も学年も異なる子どもたちが、ひとりの教師のもとで学ぶ「複式学級(multigrade classroom)」です。
特に農村部や教育資源が十分ではない地域では、子どもの人数や教師、学校設備などの事情から、こうした学校が日常的な教育の場になっています。
一般的な学校教育の視点から見ると、複式学級は「十分な条件を整えられないために仕方なく行う教育」のように見えるかもしれません。
ところが、ここで少し視点を変えてみます。
年齢の違う子どもたちが一緒に学ぶ。
一人ひとりが異なる進度で活動する。
年上の子どもが年下の子どもを助ける。
教師は全員に同じことを一斉に教えるだけではない。
これは、どこかモンテッソーリの環境に似ていないでしょうか。
複式学級とモンテッソーリを結びつけた研究
2025年、International Journal of Educational Researchに、Marija Sablić、Ana Mirosavljević、Katarina Bogatićによる研究論文「Multigrade education and the Montessori model: A pathway towards inclusion and equity」が発表されました。
AMI(Association Montessori Internationale/国際モンテッソーリ協会)は2026年6月、この研究をResearch Threadsで取り上げています。
研究者たちが注目したのは、複式教育とモンテッソーリ教育が持つ共通点です。
異年齢の環境、個別の進度、子ども同士の学び、教師が知識を一方的に伝えるのではなく学びを支える存在になること。
一見まったく異なる背景から生まれた教育環境ですが、両者には重なる部分があります。
「異年齢」はモンテッソーリでは特別なことではない
ここでAMI Research Threadsは、とても興味深い指摘をしています。
研究論文では「複式教育」と「モンテッソーリ教育」という二つの教育モデルを組み合わせる形で議論しています。
しかしAMIは、そもそも異年齢構成はモンテッソーリ教育に後から加えられる特徴ではない、と指摘します。
モンテッソーリの環境において、異年齢の子どもたちが一緒に過ごすことは、単に人数の都合でそうなっているわけではありません。
子どもは年上の子どもの活動を見て、これから自分が向かっていく姿を知ります。年上の子どもは、年下の子どもを助けたり、自分が身につけたことを伝えたりする経験をします。
同じ年齢の子どもだけを集めるのではなく、発達の異なる子どもたちが同じコミュニティーの中で生活すること自体に意味があります。
モンテッソーリの教具が全部なくても、モンテッソーリなのか?
ここから、とても大きな問いが生まれます。
農村部や教育資源の限られた地域では、整った教室や専門的なモンテッソーリ教具、訓練を受けた教師など、モンテッソーリ環境をそのまま再現するための条件が揃っているとは限りません。
では、そうした場所ではモンテッソーリ教育はできないのでしょうか。
AMI Research Threadsは、今後研究すべき問いのひとつとして、十分なモンテッソーリのインフラがない複式学級にモンテッソーリの原理を取り入れた場合、何が起こるのかを挙げています。
さらに、モンテッソーリのどの要素は異なる環境にも持っていくことができ、どの要素は専門的な教具、訓練された教師、整えられた環境などの条件を必要とするのかという問いも残されています。
CRMMという新しい考え方
研究者たちは、こうした問題を考えるために「Culturally Responsive Multigrade Montessori(CRMM)」という理論的な枠組みを提案しています。
文化的背景を尊重する教育、複式教育、そしてモンテッソーリの原理を組み合わせ、それぞれの地域や子どもの背景に応じた、よりインクルーシブで公平な教育環境を考えようというものです。
ここで「文化」という視点が入っていることも重要です。
モンテッソーリ教育を世界へ広げることは、世界中の教室をまったく同じ姿にすることではありません。
子どもが暮らしている地域、文化、家庭、言語、コミュニティーがあります。
「整えられた環境」は、そこにいる子どものためにつくられるものです。
ただし、まだ「効果が証明された教育法」ではない
ここは、この研究を紹介するうえでとても大切なところです。
CRMMは、実際の学校に導入して効果を測定した教育プログラムではありません。今回の研究は理論的な分析であり、CRMMは今後の研究のために提案された理論的枠組みです。
AMI Research Threadsも、現時点では教室での実践試験やアウトカムデータ、検証された導入結果はないことを明確にしています。
したがって、
「複式学級にモンテッソーリを導入すると学力が上がる」
「教育資源の少ない地域ではモンテッソーリが有効であることが証明された」
という研究ではありません。
むしろ、この研究の価値は、これから調べるべき新しい問いを提示したところにあります。
「足りない学校」ではなく「可能性のある環境」として見る
AMI Research Threadsがこの研究から見いだしている重要な視点のひとつが、複式学級の見方そのものです。
教師が少ない。
設備が少ない。
子どもの人数が少ない。
私たちはつい「何が足りないのか」で学校を見てしまいます。
しかしモンテッソーリの視点から見ると、
異年齢の子どもがいる。
子ども同士が学び合える。
一人ひとり違う進度で学べる。
教師がガイドとして子どもの学びを支えられる。
という、別の姿が見えてきます。
もちろん、複式学級であるだけでモンテッソーリ教育になるわけではありません。
しかし、「不足しているから仕方なく異年齢になっている環境」の中に、別の教育的な可能性を見つけられるかもしれない。
この視点は、とてもモンテッソーリらしいものだと思います。
モンテッソーリが世界に広がるということ
世界中に、同じ建物をつくること。
同じ棚を置くこと。
同じ教具を揃えること。
それだけが、モンテッソーリ教育を世界へ広げるということなのでしょうか。
それとも、子どもが自分で選び、異なる年齢の仲間と生活し、自分のペースで学び、大人がその発達を観察して必要な援助をするという原理を、それぞれの地域に根ざした形で生かしていくことなのでしょうか。
AMI Research Threadsは、この研究を紹介する最後に、非常に興味深い問いを投げかけています。
モンテッソーリの哲学は、その構造を共有しながら、同じだけの資源を持たない場所へも届くことができるのか。
まだ答えは出ていません。
だからこそ、この問いには大きな意味があります。
モンテッソーリ教育の可能性を考えることは、完成された教室を世界中にコピーする方法を考えることではなく、目の前にいる子どもと、その子どもが暮らす社会の中で、何を大切にするのかを考えることなのかもしれません。
参考資料
Association Montessori Internationale(AMI)
「Multigrade Education and Montessori – An Inclusive Framework Worth Exploring?」
AMI Research Threadsを見る
Sablić, M., Mirosavljević, A., & Bogatić, K. (2025)
“Multigrade education and the Montessori model: A pathway towards inclusion and equity.”
International Journal of Educational Research, 131, 102600.
元論文を見る
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