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幼児期のモンテッソーリ経験は、5年後の算数にどう表れた? 追跡研究から見えてきたこと

幼児期にモンテッソーリ教育を受けた経験は、その後の学びにどのような影響を与えるのでしょうか。

「モンテッソーリ教育を受けると算数が得意になる」と単純に言えるものではありません。
しかし、フランスで行われた興味深い追跡研究が、2025年12月に学術誌『Scientific Reports』に発表されました。

さらに2026年5月、AMI(国際モンテッソーリ協会)の「Research Threads」でも、この研究が取り上げられています。

研究で注目されたのは、幼児期のモンテッソーリ経験から約5年後。
子どもたちが10〜11歳になったときの「数学的な問題解決」でした。

3歳から始まった、フランスの無作為割付研究

この研究のもとになったのは、フランス・リヨン都市圏の社会経済的に不利な地域にある公立幼児教育施設で行われた研究です。

子どもたちは、モンテッソーリの幼児教育カリキュラムを取り入れたクラスと、フランスの通常の公立幼児教育カリキュラムを行うクラスに無作為に割り当てられました。

幼児教育終了時の調査では、さまざまな項目のうち、モンテッソーリ群に明確な差が確認されたのは読字でした。

では、その違いはその後も続いたのでしょうか。

5年後、97人の子どもたちをもう一度調べた

研究チームは約5年後、当時の参加者を追跡しました。

最終的に分析されたのは、小学校5年生の97人。
モンテッソーリ群39人、通常の幼児教育を受けた比較群58人で、調査時の年齢は10〜11歳でした。

重要なのは、子どもたちが幼児教育を終えたあとです。

小学校1年生から5年生までは、全員が通常のフランスの公立小学校カリキュラムで学んでいました。

つまり、5年後の調査時点では、モンテッソーリ群の子どもたちも長期間モンテッソーリ教育から離れていました。

幼児期に見られた「読む力」の差はなくなっていた

研究者たちが事前に予想していたのは、幼児期に確認された読字の優位性が、その後も残っているのではないかということでした。

ところが、小学校5年生の時点では、読字の流暢さについて両群に統計的に有意な差は確認されませんでした。

幼児期に先に身につけた力が、そのまま何年後までも「差」として残るとは限らない。

教育研究を見るときに、とても大切なポイントです。

一方で「数学的な問題解決」に差が現れた

興味深い結果が現れたのは数学でした。

小学校5年生の数学的問題解決課題では、幼児期にモンテッソーリ教育を経験した群の成績が比較群を上回りました。

効果量は d=0.58 と報告されています。

さらに興味深いのは、この差が幼児教育終了時には確認されていなかったことです。

研究者は、このように時間が経ってから現れる可能性のある効果を「sleeper effect(遅れて現れる効果)」という観点から検討しています。

なぜ、何年も経ってから数学に表れたのだろう?

ここから先は、「原因が証明された」という話ではありません。
研究者やAMIのResearch Threadsでは、その可能性について考察しています。

その一つとして挙げられているのが、モンテッソーリ教育における十進法(Base-10)の理解です。

モンテッソーリの算数では、幼児期から数量をただ記号として覚えるのではなく、具体物を手で扱いながら量と数の関係を経験していきます。

「10が10個で100になる」
「100が10個で1000になる」

こうした数の構造を、まず具体物を通して経験し、その後、少しずつ抽象的な理解へ移っていきます。

AMI Research Threadsでこの研究を解説したAngeline S. Lillard氏も、十進法についての深い理解が、後の数学的理解につながっている可能性を指摘しています。

「モンテッソーリなら算数が得意になる」とは言えません

ここは、この研究を紹介するうえで非常に重要です。

今回の数学的問題解決の結果は、研究開始時から主要仮説として設定されていたものではなく、探索的分析から見つかったものです。

また、最終的な分析対象は97人で、追跡研究には脱落もありました。

研究者自身も、標本数や複数の評価項目を検討していることなどを踏まえ、この結果が偶然生じた可能性を完全には排除できないと慎重に述べています。

一方で、数学的問題解決の差は多重比較を考慮した分析後も統計的に有意で、ベイズ分析でも差を支持する結果が報告されています。

そのため、非常に興味深い結果ではありますが、より大きな集団での追試が必要というのが適切な受け止め方でしょう。

もう一つ知っておきたい「完全なモンテッソーリ環境ではなかった」ということ

さらに、この研究を読むうえで知っておきたい点があります。

AMI Research Threadsでは、研究対象となった幼児期の環境について、完全なモンテッソーリ実践ではなく、adapted Montessori approach(適応されたモンテッソーリ・アプローチ)だったことを明記しています。

AMIの解説では、教師のトレーニング状況、ワークサイクルの長さ、教具の構成など、本来のモンテッソーリ環境とは異なる条件があったことにも触れられています。

したがって、この研究結果をそのまま「すべてのモンテッソーリ教育の効果」と一般化することはできません。

幼児期に大切なのは「早く答えられること」だけではない

この研究を読んで、私たちが特に興味深いと感じるのは、「幼児期にすぐ成果が見えるものだけが、その子の学びになるとは限らない」という点です。

モンテッソーリの算数活動では、正解を早く出すことだけを目的にしているわけではありません。

手で触れる。
並べる。
比べる。
数える。
量と記号を結びつける。
そして、具体的な経験から少しずつ抽象へ進む。

幼児期には、その経験がすぐテストの点数として現れなくても、後になって複雑な問題を考えるときの土台になっている可能性があります。

今回の研究は、その可能性を考えるための、とても興味深い研究の一つです。

研究は「モンテッソーリが優れている」と証明するためのものではありません

研究結果を見ると、どうしても「モンテッソーリの方が良かった」という結果だけを取り出したくなります。

しかし研究には、差が出た結果だけでなく、差が出なかった結果もあります。

今回も、幼児期に確認された読字の差は5年後には見られませんでした。算術の流暢さ、短期記憶、ワーキングメモリなどでも有意差は確認されていません。

だからこそ、結果を都合よく切り取らず、どんな条件で、誰を対象に、何を測定した研究なのかを見ることが大切です。

モンテッソーリ教育についても、こうした研究が積み重なることで、「何が子どもの発達や学びにつながっているのか」が少しずつ明らかになっていくことを期待したいと思います。

参考資料・出典

Association Montessori Internationale(AMI)
Research Threads「Long-Term Mathematical Outcomes in Montessori Education」
AMI公式 Research Threadsを見る

Le Diagon, S., Van der Henst, J.-B., & Prado, J. (2025)
“Early Montessori education shows delayed benefits for mathematical problem-solving in a 5-year longitudinal randomized controlled trial.”
Scientific Reports, 15, 43961.
Scientific Reports 原論文を見る

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