カテゴリ / コラム モンテッソーリ研究を読む

AMI本部のあるオランダに、もう一つのモンテッソーリ協会がある理由 – 100年の歴史と新たな協力

2026年9月、アムステルダムにあるマリア・モンテッソーリの旧書斎で行われた、AMI(国際モンテッソーリ協会)とNMV(オランダ・モンテッソーリ協会)の協力覚書の調印式。署名する関係者と記念撮影の様子。(公式写真をもとにしたAIイラスト)

モンテッソーリ教育の国際組織、AMI(国際モンテッソーリ協会)の本部は、オランダのアムステルダムにあります。
マリア・モンテッソーリが暮らした建物に現在も本部が置かれていることから、オランダのモンテッソーリ教育は、AMIを中心に発展してきたと思われるかもしれません。

しかし、その歴史をたどると、意外な事実が見えてきます。

オランダには、かつて「アムステルダム系」と「ハーグ系」という、モンテッソーリ教育の実践について異なる考え方を持つ二つの流れが存在していました。

さらに、マリア・モンテッソーリ自身がAMIを設立する12年も前の1917年には、NMV(Nederlandse Montessori Vereniging/オランダ・モンテッソーリ協会)という全国組織が誕生していたのです。

それから100年以上が経過した2026年。このNMVとAMIが、協力関係を強化するための覚書を締結しました。

二つの組織は、なぜ今、協力を深めようとしているのでしょうか。

AMIより12年早く誕生したNMVとは

NMVは、1917年に設立されたオランダのモンテッソーリ協会です。

その目的は、オランダ国内におけるモンテッソーリ教育と子どもの育成を促進することでした。

現在のNMVは、学校や教師、学校運営者を支援するとともに、教育の質を保証するための認定や評価にも関わっています。

AMIとの大きな違いは、その活動の基盤にあります。

AMIは、1929年にマリア・モンテッソーリ自身が設立した国際組織であり、彼女の教育理念と実践を忠実に継承することを使命としています。世界各国の教師養成の基準や国際的な活動を担っています。

一方のNMVは、オランダの教育制度の中でモンテッソーリ教育を発展させてきた国内組織です。学校教育に関する法律や行政による監督制度など、オランダ固有の教育環境とも深く関わっています。

つまり、AMIの本部がオランダに置かれていても、AMIがオランダ国内のすべてのモンテッソーリ学校を統括しているわけではないのです。

アムステルダム系とハーグ系 – 二つの異なる流れ

では、NMVが設立された頃、オランダではどのようなモンテッソーリ教育が行われていたのでしょうか。

NMVが発行する『Montessori Magazine』には、この時代の教育実践を振り返る興味深い研究記事があります。

オランダでは1916年、ハーグの住宅の一室で5人の子どもを対象としたモンテッソーリ教育の実践が始まりました。

しかし、当時は第一次世界大戦の最中にあり、マリア・モンテッソーリ本人と直接連絡を取ることは容易ではありませんでした。彼女の著作も、オランダ語で十分に紹介されていたわけではありません。

そのような状況の中、現地の教育者たちはモンテッソーリの考え方を取り入れながら、それぞれに実践を模索していました。

フレーベルやドクロリー、ドルトン・プランなど、ほかの教育思想と組み合わせた実践も生まれました。

1917年にNMVが設立されると、翌1918年にはハーグで、1919〜1920年にはアムステルダムでモンテッソーリ教師養成が始まります。

しかし、この二つの養成の方向性は同じではありませんでした。

アムステルダムの養成では、マリア・モンテッソーリ自身の指示に忠実であることが重視されました。

これに対して、ハーグの養成では、ほかの教育思想や実践を取り入れることに、より開かれた姿勢が見られました。

同じモンテッソーリ教育を掲げながら、その方法をどこまで忠実に継承するべきか、あるいは現地の教育実践に合わせて発展させるべきか。

こうした違いは、オランダのモンテッソーリ教育が広まっていく過程で、すでに存在していたのです。

ただし、当時のアムステルダム系とハーグ系が、そのまま現在のAMIとNMVに分かれたわけではありません。NMVの内部にも多様な教育実践があり、歴史的な流れと現在の組織を単純に対応させることはできません。

それでも、モンテッソーリ教育の本質をどのように守り、どのように発展させるかという問いが、100年以上前から存在していたことは注目に値します。

2026年、二つの協会が協力覚書を締結

2026年9月、AMIとNMVは、協力関係を強化するための覚書(Memorandum of Understanding/MoU)に署名しました。

署名が行われたのは、アムステルダムのコーニンギンネウェグ161番地にある、マリア・モンテッソーリが使用していた書斎です。

彼女の肖像写真や書籍が並ぶ歴史的な部屋で、両協会の理事会による署名が行われました。

NMVの公式発表によると、今回の協力は約2年間にわたる対話を経て実現したものです。

覚書では、次のような分野について協力を進めるとしています。

・オランダ国内におけるAMIディプロマの位置づけ
・12〜18歳のモンテッソーリ教育の強化
・教育の質の保証に関する対話
・研究と科学的根拠に関する取り組み
・戦略的な協力
・会議や情報発信における連携

特に注目したいのが、AMIディプロマの位置づけと、教育の質の保証という二つの項目です。

オランダには、NMVが関わる国内の教師養成や認定の仕組みがあり、AMIには国際的な教師養成の基準があります。

今回の協定は、そうした異なる仕組みの中で、AMIディプロマをどのように位置づけ、教育の質についてどのような共通理解を築いていくのかを検討するものと考えられます。

ただし、覚書は法的拘束力のない協力の枠組みであり、資格制度の統一やAMIディプロマの国内での新たな正式認定が決まったということではありません。

なぜ今、協力関係を強めるのか

今回の協定は、突然生まれたものではありません。

NMVの中期戦略資料では、2026年にAMIとの提携協定を締結し、2027年に具体的な協力関係を展開、2028年には成果を評価する計画が示されていました。

このことから、今回の協定は単なる儀礼的な署名ではなく、双方が時間をかけて検討してきた協力の枠組みだとわかります。

その背景を考えるうえで重要なのが、モンテッソーリ教育を広く社会に普及させることと、その教育の本質を守ることの関係です。

モンテッソーリ教育が各国の公教育制度に広がれば、教員資格、教育課程、学校評価など、その国の制度との調整が必要になります。

一方で、制度への適応が進む中でも、マリア・モンテッソーリが築いた教育の原理をどのように継承するかという課題は残ります。

国際的な教育基準と、各国の教育制度の中で培われた実践。その両者をどのように結びつけるのか。

今回のAMIとNMVの協力は、その問いに向き合う試みとして読むことができるでしょう。

オランダだけではない – 世界各国で進むモンテッソーリ教育の基準づくり

今回のAMIとNMVの協定は、オランダだけの出来事として捉えるよりも、世界各国で進んできたモンテッソーリ教育の質の保証や、教育制度との関係を考える中で見ると、さらに興味深いものになります。

2026年10月、AMIはアメリカで進められている全国共通カリキュラムの策定を発表しました。

この取り組みには、AMI、AMI/USA、AMS(アメリカ・モンテッソーリ協会)、MPPI(モンテッソーリ公共政策イニシアチブ)が関わっています。

AMIとAMSは、それぞれ異なる教師養成の歴史や基準を持つ組織です。

その両者が協力し、モンテッソーリ教育の理念、原則、教育内容、実践について、共通の説明を示そうとしているのです。

2026年末には、誕生から6歳までを対象とした最初のカリキュラムが公開される予定です。

しかし、こうした取り組みはアメリカが初めてではありません。

AMIは今回の発表で、すでにオーストラリア、ケニア、ノルウェーでも、各国の団体と協力して全国的なモンテッソーリ・カリキュラムの枠組みづくりに関わってきたことを明らかにしています。

オーストラリアでは、モンテッソーリ教育の理念や教育内容を、国内の教育制度に対応するカリキュラムとして整備する取り組みが続いてきました。

また、ケニアやノルウェーでも、それぞれの国の教育制度や社会環境に対応するためのカリキュラムづくりが進められてきました。

これらは各国が同じカリキュラムを導入するという意味ではありません。

モンテッソーリ教育の理念や実践を、それぞれの国の教育制度の中でどのように位置づけるか。そのための枠組みを整えてきたのです。

そして2026年、アメリカでは異なる教育団体による共通カリキュラムの策定が進み、オランダではAMIとNMVが協力関係を強化しました。

この二つの取り組みは、全国カリキュラムの策定と組織間の協力協定という点で性格が異なります。

それでも、モンテッソーリ教育を社会の中でどのように位置づけ、その質をどのように守るのかという共通の課題が見えてきます。

世界に広がるほど、問われる「モンテッソーリ教育とは何か」

モンテッソーリ教育は、世界各国の異なる社会制度や文化の中で実践されています。

その広がりは、教育の可能性を示す一方で、何をもってモンテッソーリ教育と呼ぶのかという問いも生み出します。

教室にモンテッソーリ教具が置かれていれば、それだけでモンテッソーリ教育といえるのでしょうか。

教師が子どもの発達を理解し、観察に基づいて環境を整え、子どもの自発的な活動を支えるという教育の原則は、どこまで共有されているのでしょうか。

AMIが各国のカリキュラムづくりに関わってきた背景には、こうした教育の質をめぐる課題もあると考えられます。

ただし、今回のアメリカ、オランダ、そしてほかの国々での取り組みが、一つの世界的な統一計画として進められているわけではありません。

それぞれに目的も歴史も異なります。

重要なのは、各国の教育制度や組織の独自性を保ちながら、マリア・モンテッソーリが築いた教育の原則をどのように継承していくのか、ということでしょう。

100年以上前、オランダではすでにモンテッソーリ教育の継承と発展について、異なる考え方が生まれていました。

そのオランダで、2026年、AMIとNMVが協力のための覚書を交わしました。

今回の出来事は、モンテッソーリ教育が世界に広がる中で、異なる立場の組織が何を共有し、何を大切に守り続けようとしているのかを考える、一つの機会になるのではないでしょうか。

参考資料

・NMV「NMV en AMI versterken samenwerking」(2026年10月12日)
・NMV『Montessori Magazine』「Zicht op verschillen tussen montessorischolen」
・NMV中期戦略資料(2026年5月)
・AMI「US Montessori National Curriculum」(2026年10月17日)
・Montessori National Curriculum(オーストラリア)

2026.10.31カテゴリ / コラム モンテッソーリ研究を読む

AMI本部のあるオランダに、もう一つのモンテッソーリ協会がある理由 – 100年の歴史と新たな協力

2026.10.30カテゴリ / コラム モンテッソーリ教育に影響を受けた著名人

地球の長い歴史の中に、自分がいる – 作家アンソニー・ドーアに残ったモンテッソーリの学び

2026.10.29カテゴリ / コラム モンテッソーリ研究を読む

「子ども主体」を、理想で終わらせない – リラードが問う教育革命

2026.10.28カテゴリ / コラム 写真でたどる マリア・モンテッソーリの歴史

写真でたどる マリア・モンテッソーリの歴史|第7回|1950年以降 晩年、そして世界に受け継がれた教育

2026.10.27カテゴリ / コラム モンテッソーリ研究を読む

スペインとギリシャに渡ったモンテッソーリ教育 – 普及を支えた教育者たちの物語

2026.10.26カテゴリ / モンテッソーリ教育に影響を受けた著名人

答えを教えるより、発見したくなる世界を – 『シムシティ』の生みの親ウィル・ライトが語るモンテッソーリ教育