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AMI Q&A|「貸して」と言われたら貸さなきゃダメ? ― モンテッソーリが“今使っている子”を守る理由

公園の砂場で、子どもがおもちゃを使っていると、別の子が近づいてくることがあります。

「貸して」

そんなとき、私たち大人はつい、

「お友達が使いたいんだって。貸してあげようね」
「ずっと使っていたら、お友達がかわいそうだよ」
「どうぞできるかな?」

と声をかけたくなります。

おもちゃを貸せる子は、優しい子。
貸したくないと言う子は、わがままな子。

どこかで、そんなふうに考えてしまうこともあるかもしれません。

けれども、子どもは「貸して」と言われたら、必ず貸さなければならないのでしょうか。

「今使っている」ということを守る

AMI(国際モンテッソーリ協会)の公式Q&A「Children Sharing」には、モンテッソーリ環境における共有の考え方が紹介されています。

モンテッソーリの教室に置かれている教具は、特定の子どものものではありません。すべての子どもが使える、共同のものです。

ただし、誰かが使っている最中に、別の子どもが持っていくことはできません。

使いたい教具が使用中であれば、その子は終わるまで待つか、別の活動を選びます。

つまり、「みんなのものだから、今すぐ貸してあげなさい」ではありません。

みんなのものであるからこそ、今それを使っている人の活動を守るのです。

これは、おもちゃや教具を独占してよいという意味ではありません。子どもが自分で選んだ活動に、納得するまで取り組めるようにするための約束です。

同時に、待つ側の子どもも、

「使いたいものが、いつでもすぐ手に入るわけではない」
「今は別の人が使っている」
「終わったら自分も使うことができる」

という経験を重ねていきます。

共有できるようになることも、発達の一部

幼い子どもは、自分と他者との境界をつくっている途中にあります。

「これを使いたい」
「これは私のもの」
「まだ終わっていない」

という気持ちを持つことは、単なるわがままではありません。

AMIは、共有できるようになることを発達の過程として捉えています。公式Q&Aには2歳半から3歳頃という目安も示されていますが、これは、すべての子どもが同じ時期に同じ姿を見せるという意味ではないでしょう。

2014年に発表された2歳から4歳までの子どもの研究でも、2歳児と3歳児は、相手から「欲しい」という明確な合図があったときに分けることが多く、4歳児では、より自発的な共有が見られたと報告されています。

共有する力は、大人が一度教えれば身につくマナーではなく、他者への理解とともに少しずつ育っていくものなのです。

何でも貸してしまう子は、大丈夫?

一方で、こんな心配をする保護者の方もいます。

「うちの子は、誰にでもすぐおもちゃを貸してしまいます」
「おもちゃを取られても、何も言いません」
「自分の気持ちを我慢しているのではないでしょうか」

自分から「どうぞ」と渡し、その後も気持ちよく別の遊びを始めているのであれば、本当に貸したかったのかもしれません。

けれども、おもちゃを渡したという行動だけで、子どもの気持ちを判断することはできません。

取られたあとに相手をじっと見ている。
手を伸ばしかけて止める。
動きが止まる。
表情が固くなる。
その場から離れてしまう。
しばらくしてから泣き始める。

言葉で「返して」と言えない子どもも、身体や視線で気持ちを表していることがあります。

反対に、目立った反応をしない子どももいます。しかし、泣かなかったからといって、「何も感じていない」とは限りません。

その場で驚いて動けなかったのかもしれません。
どうすればよいか分からなかったのかもしれません。
相手に働きかける言葉や方法を、まだ持っていないのかもしれません。

大人がすぐに結論を出さず、その前後の姿まで見ることが大切です。

まだ言葉で言えない子には、大人が代わりに伝える

子どもがおもちゃを取られて困っている様子なら、大人がそばに入り、静かに代弁します。

「今、使っていたね」
「まだ使いたかったんだね」
「終わったら貸すね」
「今は、この子が使っています」

まだ話せない子どもに、「返してって言いなさい」と求める必要はありません。大人が子どものそばに立ち、必要な言葉を代わりに伝えます。

取られそうになったところで気づいたなら、相手の手を穏やかに止めて、

「これは今、使っているよ」
「終わるまで待とうね」

と伝えることもできます。

すでに持っていかれてしまった場合には、

「今使っていたから、いったん返してもらおうね」

と、大人が間に入ってもよいでしょう。

これは、子どもの代わりに争うことではありません。まだ自分で境界を示せない子どもに、「あなたが使っているものは、途中で取られなくてよい」と知らせることです。

その経験が、やがて自分で手を添えたり、「使ってる」「あとで」と伝えたりする力につながっていきます。

泣いたときに、すぐ「貸してあげよう」と収めない

おもちゃを取られて子どもが泣いたとき、

「またあとで使えばいいでしょう」
「そんなことで泣かないの」
「一緒に使えばいいじゃない」

と、急いで気持ちを収めようとする必要はありません。

まずは、

「まだ使いたかったね」
「取られて嫌だったね」

と、その子の経験を言葉にします。

泣くことは、共有する力が育っていない証拠ではありません。自分が大切にしていた活動を突然止められたことへの、自然な表現である場合もあります。

自分の気持ちを十分に受け止めてもらった子どもは、少しずつ、相手にも同じような気持ちがあることを理解していきます。

自分の気持ちを無視されながら、他者への思いやりだけを求められても、本当の意味での共有にはつながりにくいのです。

家庭のおもちゃと、みんなで使うものは少し違う

ここで区別しておきたいのは、家庭から持ってきた個人のおもちゃと、公園や教室に置かれている共有物です。

自分の持ち物をほかの子に貸すかどうかは、基本的には持ち主である子どもが決めることです。

貸したくないのであれば、

「これは今日は貸したくないんだね」

と気持ちを受け止めてもよいでしょう。

貸すのが難しい大切なおもちゃは、公園には持っていかないという準備もできます。

一方、滑り台やブランコなど、みんなで使う遊具は、一人だけがいつまでも使い続けることはできません。ただし、そこでも突然やめさせるのではなく、

「待っている子がいるね」
「あと3回滑ったら交代しようか」

など、終わりを見通せるように伝えます。

「共有するもの」と「その子自身の持ち物」を、すべて同じルールで扱う必要はありません。

「貸せる子」にすることを急がなくてもいい

大人が目指したいのは、「貸して」と言われたら、いつでもすぐに差し出せる子どもを育てることではありません。

自分が今、何をしたいのか。
まだ使いたいのか。
もう終わったから渡してもよいのか。
相手も使いたいと思っているのか。

自分と他者、それぞれの気持ちに気づきながら、関わり方を選べるようになることです。

自分から喜んで渡したのなら、その姿をそのまま受け止める。
まだ使いたいのなら、その活動を守る。
取られて困っているのなら、大人が代わりに境界を示す。
泣いたのなら、その気持ちに言葉を添える。

「貸してあげられたか」だけを見て、優しい子かどうかを判断する必要はありません。

自分の気持ちを大切にしてもらった経験の積み重ねが、やがて、ほかの人の気持ちも大切にできる力へとつながっていくのです。

参考資料

Association Montessori Internationale「Children Sharing」

Wu, Z. & Su, Y.(2014)“How do preschoolers’ sharing behaviors relate to their theory of mind understanding?”

※AMI公式Q&Aには、幼い時期に共有を強制すると利己的な行動につながるという趣旨の記載があります。ただし、Wu and Su(2014)の研究は、強制的な共有が利己性を生むかどうかを直接検証したものではありません。

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