ピースボート – 船の上のモンテッソーリ「子どもの家」

英国リバプールに寄港したパシフィック・ワールド号(2023年)
Photo: Chris Allen / Wikimedia Commons / CC BY-SA 2.0/明るさ・色調を調整
2026年8月20日、横浜港から一隻の船が地球一周へ出発しました。翌21日には神戸港でも乗客を迎え、109日間にわたるVoyage124の航海が始まりました。
船の名前は「パシフィック・ワールド号」。
この船の中には、2歳から6歳までの子どもたちが過ごす、モンテッソーリの「子どもの家」があります。
世界一周の船の上に、モンテッソーリ環境がある。
初めて知る方には、少し意外に感じられるかもしれません。
けれども、ピースボートが続けてきた活動と、モンテッソーリ教育が目指してきたものをたどると、この二つが出会った理由が見えてきます。
そもそも、ピースボートとは?
ピースボートは、船による国際交流を続けてきた国際NGOです。
最初の航海は、1983年9月2日に横浜を出航しました。
きっかけとなったのは、当時国際問題になっていた歴史教科書問題でした。
「自分たちが学んできた歴史は、本当に正しいのだろうか」
「現地の人たちは、どのように受け止めているのだろうか」
疑問を抱いた若者たちが、遠くから情報を受け取るだけではなく、実際にアジアへ行き、現地の人たちに会って話を聞こうと考えたことが出発点でした。
最初の航海では、横浜から小笠原、グアム、サイパンなどをめぐりました。
1990年には世界一周クルーズを実現。その後も、国際交流、平和、環境、災害支援、核兵器廃絶など、さまざまな活動を船の内外で続けてきました。
現在までに100回を超えるクルーズを実施し、世界200以上の港を訪れています。
ピースボートは、世界各地を観光するだけの船ではありません。
船内で、異なる国や地域、世代、背景をもつ人たちがともに生活する。寄港地では地域の人たちと出会い、歴史や文化、その土地が抱える課題について直接話を聞く。
船そのものが、国境を越えた交流と学びの場になっています。
ピースボートと旅行会社の役割
国際交流活動を行うNGOピースボートと、クルーズの旅行企画・実施を担う株式会社ジャパングレイスは、それぞれ異なる役割を担っています。今回のVoyage124の旅行企画・実施も、株式会社ジャパングレイスです。
ピースボートは、年に何回出航しているの?
現在、ピースボートの世界一周クルーズは、年間3回を基本に運航されています。
おおむね春の4月、夏の8月、冬の12月に日本を出航し、それぞれ約100日をかけて地球を一周します。
例えば、現在発表されている2027年の世界一周クルーズは、4月、8月、12月の3航海です。2028年、2029年についても、同じく4月、8月、12月の出航が予定されています。
それぞれの航海には、「Voyage126」「Voyage127」のような番号が付けられ、航路や寄港地、出航日、帰港日が異なります。
世界一周以外に、日本一周などの短いクルーズが企画されることもあります。そのため、ピースボートの船が出航する総回数と、世界一周クルーズの回数は必ずしも同じではありません。
2009年、船の上に「子どもの家」が生まれた
ピースボートの航海に、洋上モンテッソーリ保育園「ピースボート子どもの家」が誕生したのは、2009年です。
第66回ピースボートの航海で、初めて「子どもの家」プログラムが実施されました。
プログラム創設者は小野寺愛さん。モンテッソーリ教育のアドバイザーとして、国際モンテッソーリ協会(AMI)公認教師の深津高子さんが関わっています。
小さな子どもを連れた長い旅では、どうしても大人の予定や時間に子どもを合わせることが多くなります。
しかし、船の中の「子どもの家」には、子どもが自分のリズムで動き、活動を選び、自分の力を使って生活できる環境があります。
大人の船旅のために子どもを預かるだけの場所ではありません。
長い航海の中でも、子どもが思う存分「子どもの時間」を生きられる場所です。
公式サイトによると、2009年の開始以来、200人以上の子どもたちとその保護者が、「ピースボート子どもの家」とともに世界を旅してきました。
以前に公開された映像では、「ピースボート子どもの家」のアドバイザーを務める深津高子先生が、幼い時期に世界のさまざまな「違い」と出会う意味や、親子でピースボートに乗る魅力について語っています。
「ピースボート子どもの家」アドバイザー・深津高子先生からのメッセージ
すべてのピースボートに「子どもの家」があるの?
ピースボートのすべての航海に、「子どもの家」があるわけではありません。
「ピースボート子どもの家」は、対象となる航海でのみ実施される洋上モンテッソーリプログラムです。幼い子どもと乗船できる航海であっても、「子どもの家」が実施されるとは限りません。
参加を希望する場合は、希望する航海のVoyage番号を確認し、同じ番号の航海で「子どもの家」が実施されるかを公式サイトで確認しましょう。
また、対象年齢や定員、プログラム代金、申し込み期限などは航海ごとに異なるため、申し込み前に最新の募集条件を確認してください。
今回のVoyage124では、第21回「ピースボート子どもの家」の実施が公式に発表されています。
世界一周とモンテッソーリ教育
モンテッソーリ環境では、子どもが自分で選び、手を使い、繰り返し、生活に参加することを大切にします。
船の上でも、その基本は変わりません。
けれども、子どもを取り巻く世界は、通常の園とは大きく異なります。
窓の外には、どこまでも続く海があります。
船内では、さまざまな国や地域から集まった乗客やクルーが生活しています。異なる言葉が聞こえ、異なる文化をもつ人と、毎日のように顔を合わせます。
港に着けば、その土地の気候や匂い、食べ物、植物、動物、人々の暮らしに出会います。
そして船は、次の土地へ向かってゆっくりと進んでいきます。
飛行機で目的地へ一気に移動する旅とは違い、船では気温や風、日の長さ、時差、見える景色が少しずつ変化します。
子どもは「世界」や「地球一周」という言葉を説明として覚えるのではなく、自分の身体と感覚を通して、その広さや多様さを受け取っていきます。
「平和は子どもから始まる」を、生活の中で
ピースボートは、実際にその土地を訪れ、人と出会い、顔の見える関係をつくることを続けてきました。
モンテッソーリ教育における平和も、平和の大切さを言葉で教えるだけのものではありません。
自分の活動を大切にすること。
同時に、ほかの人の活動も尊重すること。
自分でできることを見つけ、共同体の一員として生活に参加すること。
異なる人と同じ場所を分かち合うこと。
そうした日々の経験が、平和をつくる人間の土台になっていきます。
「自分の目で世界を確かめたい」と始まったピースボート。
「平和は子どもから始まる」と考えたモンテッソーリ。
その二つが出会って生まれたのが、洋上の「子どもの家」なのです。
現在はVoyage124が地球一周中
2026年8月、「ピースボート子どもの家」を実施する第21回目の航海が始まりました。
Voyage124「アフリカ・中南米・南太平洋コース」です。
横浜発着は、2026年8月20日から12月6日まで。神戸発着は、8月21日から12月7日まで。いずれも109日間の地球一周です。
横浜、神戸を出航した船は、香港、シンガポールを経て、モーリシャス、南アフリカへ向かいます。
その後、テネリフェ島、ポルト、リバプール、ベルファスト、アイスランドのレイキャビクを訪れ、大西洋を渡ってニューヨークへ。パナマ運河を通航し、ペルーのカヤオ、イースター島、タヒチ、ハワイをめぐり、日本へ帰港する予定です。
天候や現地事情などにより、入出港日時や寄港地が変更される場合があります。
出航から始まった、船の上の日常
「ピースボート子どもの家」の公式ブログでは、Voyage124の出航準備から、子どもたちの生活が始まるまでの様子が紹介されています。
横浜と神戸を出航した後、まず始まったのは、子ども自身が新しい環境に少しずつ親しんでいくための「慣れ保育」です。
出航から約1週間後には、子どもたちが初めて一緒にランチを食べる様子が掲載されました。
また、船内では子どもたちだけでなく、大人の乗客を対象にしたモンテッソーリの体験会も行われています。
深津高子さんによる「感覚の洗練日」では、参加者がピンクタワーやさまざまな感覚教具に触れました。
普段から教具を使っている子どもたちが、大人に使い方を伝える場面もあったそうです。
「子どもの家」の外にもモンテッソーリ教育が広がり、子どもと大人が互いに学び合う時間が生まれています。
船の上にも、子どもたちの「公園」がある
パシフィック・ワールド号の最上階、15階には、「サンクチュアリ」と呼ばれる屋外デッキがあります。
水場やデッキチェアが置かれ、海風を感じながら自由にくつろげる場所です。
Voyage124では、その一部に子どもたちのためのスペースが用意されています。子どもたちは親しみを込めて、この場所を「公園」と呼んでいます。
出航前にはクルーも一緒に、子どもたちを迎えるためのメンテナンスを行いました。
室内のモンテッソーリ環境だけでなく、身体を動かしたり、海や空を感じたりできる場所も、船内での子どもの生活を支えています。
Voyage124の航海は、まだ始まったばかり
これから子どもたちは、アフリカの大地、ヨーロッパの街、アイスランドの空、ニューヨークの人々、南太平洋の島々と出会っていきます。
もちろん、幼い子どもが寄港地の歴史や社会問題を、すべて言葉で理解するわけではありません。
けれども、違う言葉を話す人と笑い合ったこと。
見たことのない食べ物を味わったこと。
大人が目の前の風景に感動していたこと。
自分の暮らす場所とは異なる生活が、世界にはたくさんあると感じたこと。
そうした経験は、子どもの内側に残っていきます。
船の上の「子どもの家」で、子どもたちはこれから何を見つけ、何を心の中に持ち帰るのでしょうか。
Voyage124の公式ブログは、航海中も更新されています。
個別の記事ではなく、以下の固定ページから、出航準備、船内生活、子どもの家での活動、寄港地での出会いなど、Voyage124の記録をまとめて読むことができます。
現在航海中の子どもたちの様子はこちら
いつか、船の上の「子どもの家」へ
次の「ピースボート子どもの家」が、どの航海で実施されるのかは、まだ分かりません。
「子どもの家」はすべての航海で行われるわけではありませんが、世界をめぐる船の上で、子どもが自分の生活をつくり、さまざまな国や文化と出会っていく。
そんな特別な時間を、いつか親子で体験してみたいですね。
いつか、親子で世界をめぐる
船の上の「子どもの家」へ
参考資料
・国際交流NGOピースボート「PEACE BOATとは」
・ピースボートの主なあゆみ
・ピースボートクルーズ公式サイト
・ピースボート子どもの家公式サイト
・ピースボート子どもの家「ごあいさつ」
・Voyage124「子どもの家」実施案内
・Voyage124公式日程・航路
・2026年夏 Voyage124公式ブログ一覧
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