「問題を恐れない」元Cisco CTO パドマスリー・ウォリアーが、モンテッソーリ教育から持ち続けたもの

世界最大級のネットワーク機器企業Ciscoで、会社の未来の技術を考えるCTO(最高技術責任者)を務めた女性がいます。パドマスリー・ウォリアー(Padmasree Warrior)。
インドに生まれ、Motorolaで23年間働き、2003年にCTOへ。2007年にはCiscoのCTOに迎えられ、その後はChief Technology & Strategy Officerとして、技術だけでなく企業戦略、投資、M&Aなどにも関わりました。まだ誰も答えを知らない技術について考え、限られた情報から会社が進む方向を決めていく。そんな仕事をしてきたウォリアーが、自分の考え方の原点について語ったことがあります。
その話をたどっていくと、インドで過ごしたモンテッソーリの学校での子ども時代に行き着きます。
幼稚園から高校まで、モンテッソーリの学校で学んだ
2013年、経営・リーダーシップ誌『Briefings on Talent & Leadership』は、モンテッソーリ教育を受けた起業家や経営者について特集しています。その中で紹介されている一人が、当時CiscoのChief Strategy Officer/CTOだったウォリアーです。記事によると、彼女はインド南部のヴィジャヤワーダにあるモンテッソーリの学校に、幼稚園から高校まで通いました。
彼女が鮮明に覚えていたのは、問題に出会ったとき、すぐに答えを教えてもらうのではなく、自分で答えを見つけることを求められた経験でした。それは、ときには大変で、時間もかかることだったといいます。けれど、その経験についてウォリアーは、こんな言葉を残しています。
“Not being afraid of problems.”——「問題を恐れないこと。」
問題にぶつかったとき、それによって立ちすくむのではなく、「解決する機会」として見る。それが自分の中に残ったと、彼女は振り返っています。
答えが全部そろっていなくても、前へ進む
ウォリアーはさらに、モンテッソーリ教育によって幼いころからself-confidence(自信)が育ったと語っています。後に彼女が担うことになったのは、Ciscoという巨大なテクノロジー企業で「これからどんな技術が必要になるのか」を考える仕事でした。現実の世界では、すべての情報がきれいに揃ってから決断できるわけではありません。
ウォリアー自身も、曖昧な状況の中へ入り、限られた情報から判断しなければならない自分の仕事について語ったうえで、そうした状況に向き合えることは幼いころに学んだものだと振り返っています。子どものころに繰り返した「分からない。でも、自分で考えてみる」という経験と、何十年も後に「まだ存在していない未来」を考える仕事。彼女自身の言葉を追っていくと、その二つがつながって見えてきます。
もともと「どうなるんだろう?」を試す子どもだった
ウォリアーの好奇心をよく表している、少し驚くような子ども時代のエピソードも残っています。子どものころ、プラスチック製のバケツの一部をちぎって火をつけたことがあったそうです。固体だったプラスチックが溶け、光りながら落ちていく。その変化に夢中になって観察していたところ、溶けたプラスチックが自分の足に落ちてしまいました。
もちろん、子どもに勧められるような「実験」ではありません。けれど、このエピソードからは、目の前のものに対して「これはどうなるんだろう?」と実際に試さずにはいられない、幼いウォリアーの姿が見えてきます。この好奇心そのものをモンテッソーリ教育によって生まれたものと考える必要はないでしょう。もともと強い好奇心を持った子どもが、自分で問題に向き合い、自分で答えを探すことを求められる環境で育った。その両方が彼女の子ども時代にはありました。
そして彼女は、2万5000人のエンジニアを率いる
ウォリアーは1984年にMotorolaへ入社し、23年間にわたって同社でキャリアを積みました。2003年にはCTOとなり、約2万5000人ものエンジニアを率いる立場になります。その後Ciscoへ移り、CTO、さらにChief Technology & Strategy Officerへ。Ciscoでは技術開発と企業戦略を結びつけ、将来の市場や技術の変化を見据える役割を担いました。
そして興味深いことに、大人になったウォリアーがリーダーシップについて語る言葉にも、子ども時代の話と重なるものがあります。
「すべての答えを知ること」より、正しい問いをする
後年、ウォリアーはリーダーシップについて、リーダーは必ずしもすべての答えを知っている必要はなく、正しい問いをすることが大切だという考えを語っています。若いころ管理職になった彼女は、最初は部下に「何をすればいいか」を自分で教えていたそうです。ところが、そうすると部下が自分で解決策を持ってこなくなったことに気づきます。どうせ上司が答えを教えるのなら、自分で考える必要がなくなってしまうからです。そこで彼女は、自分が問題を解決するリーダーから、人が問題を解決するのを助けるリーダーへと変わっていきました。
幼いころ、自分自身が「答えを渡されず、自分で見つける」経験をしていたウォリアー。そして大人になり、何万人もの人を率いる立場になった彼女が、自分が答えを与えるのではなく、人が答えを見つけるのを助けることの大切さに気づいた。もちろん、この二つを単純な因果関係として結びつけることはできません。けれど、彼女がモンテッソーリ教育について語った言葉と、後年のリーダーシップについて語った言葉は、不思議なほどよく響き合っています。
スタンフォードで、モンテッソーリについて質問される
2013年、ウォリアーはスタンフォード大学のEntrepreneurial Thought Leadersシリーズに登壇し、「Realizing Innovation at Enterprise Scale(企業規模でイノベーションを実現する)」と題した講演を行いました。当時CiscoのChief Technology & Strategy Officerだった彼女が、イノベーションやリーダーシップ、これからのテクノロジーについて約55分にわたって語っています。
そして、この動画を今回紹介したい理由がもうひとつあります。講演後の質疑応答で、一人の参加者がウォリアーがモンテッソーリ校に通っていたことに触れたうえで、教育の未来について質問しているのです。ウォリアーは、まず「learning(学習)」と「education(教育)」を分けて考える必要があると答えます。知識やコンテンツを学ぶ方法はテクノロジーによって大きく変わっていく一方、学校という場所で人と関わりながら育つことには、それとは別の意味がある。そんな視点から、これからの教育について話しています。
2013年、スタンフォード大学でイノベーションとリーダーシップについて語るパドマスリー・ウォリアー。質疑応答では、モンテッソーリ校で学んだ経歴にも触れながら、教育の未来について質問されています。動画:Stanford eCorner(英語)
子どもが考えている時間を、奪っていないでしょうか
モンテッソーリの教室で子どもを見ていると、大人にはすぐ答えが分かってしまう場面がたくさんあります。水をこぼした。ボタンが留まらない。パズルが入らない。道具の使い方がうまくいかない。大人が手を出せば、ほんの数秒で解決できます。けれど、その数秒を短縮することより、子どもが「どうしたらいいだろう」と考えている時間の方が大切なことがあります。
見て、試して、失敗して、もう一度やってみる。必要なときには大人がやり方を示し、環境を整える。でも、できるところまで大人が代わりにやってしまわない。そこで育っているのは、ひとつの活動が「できる」ということだけではありません。「分からないことに出会っても、自分は考えることができる」という、自分自身への信頼でもあります。
世界的なテクノロジー企業で、まだ答えのない未来について考え続けたパドマスリー・ウォリアー。彼女がモンテッソーリの学校で学んだものとして、何十年も経ってから口にしたのは、難しい知識や特別な技術ではありませんでした。
「問題を恐れないこと。」
子どもがいま目の前で何かに困っている、その時間。大人には遠回りに見えても、すぐに答えを渡さないことで育っているものがあるのかもしれません。
参考資料
・Briefings on Talent & Leadership「Montessori教育とビジネスリーダーに関する特集」
・Cisco Newsroom「Cisco Appoints Padmasree Warrior as Chief Technology Officer」
・Stanford eCorner「Realizing Innovation at Enterprise Scale」
・Masters of Scale「Harness the Power of Factions, with Padmasree Warrior」
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