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「できない」とき、すぐに手伝わないで – 毎日の暮らしで育つ「実行機能」とは?

子どもが何かをしようとして、うまくできずに困っている。

ふたが開かない。
水をこぼしてしまった。
次に何をするのか分からなくなった。
思った通りにできない。

そんな姿を見ると、大人はつい、

「こうすればいいよ」
「貸して。やってあげる」

と手を出したくなります。

もちろん、子どもがまだ知らないことを伝えたり、必要な援助をしたりすることは大切です。

でも、子どもが「どうしよう」と考えているその時間にも、実は大切な力が育っています。

それが、「実行機能(Executive Functions)」と呼ばれる力です。

少し難しそうな言葉ですが、簡単にいえば、

「自分で考え、自分の行動を調整しながら、やろうとしていることを進めていくための力」です。

AMI 0–3トレーナーのAlejandra Rosas(アレハンドラ・ロサス)先生は、AMI公式「Voices of AMI Training」の中で、生まれてから3歳までの子どもの実行機能がどのように育っていくのか、そして大人に何ができるのかを紹介しています。

今回お話を紹介するAMIトレーナー

Alejandra Rosas(アレハンドラ・ロサス)

AMI 0–3 Trainer

Alejandra Rosas(アレハンドラ・ロサス)

AMI 0–3トレーナー。乳幼児期の発達とモンテッソーリ教育に携わり、0〜3歳の子どもの発達を支える教師の養成にも携わっています。

出典:Association Montessori Internationale(AMI)
※人物イラストはAMI公式および公開されている本人写真を参考に制作したイメージです。

「実行機能」って何でしょう?

「実行機能」と聞くと、なんだか難しい能力のように感じるかもしれません。

でも、私たちは毎日の生活の中で、この力をずっと使っています。

今やっていることを覚えておく。
やりたいことを少し我慢する。
うまくいかなければ別の方法を考える。
順番を考えて行動する。
気持ちを整えて、もう一度やってみる。

こうしたことを可能にしているのが実行機能です。

Alejandra先生は、その中心となる働きとして、ワーキングメモリ、抑制、認知的柔軟性の3つを紹介しています。

ワーキングメモリ(作業記憶)
今やっていることに必要な情報を、一時的に頭の中に置いておく力。

抑制
すぐにしたいことや衝動を少し抑えて、必要な行動を選ぶ力。

認知的柔軟性
思った通りにいかなかったとき、別の方法を考えたり、やり方を変えたりする力です。

こうして言葉にすると難しく感じますが、子どもたちは特別な勉強をして、この3つを身につけるわけではありません。

毎日の暮らしの中で、何度もこの力を使っています。

たとえば「お皿を洗う」だけでも

Alejandra先生は、実行機能が働く身近な例として、食器を洗う活動を挙げています。

子どもがお皿を洗うところを想像してみてください。

まず水を用意する。
お皿を濡らす。
スポンジを使う。
洗う。
すすぐ。
乾かす。

活動には流れがあります。

子どもは、今どこまでやったのか、次に何をするのかを覚えながら進めていきます。

そこではワーキングメモリが働いています。

ところが、洗剤をたくさん入れすぎて、泡だらけになってしまったらどうでしょう。

「あれ?」

思っていた状態とは違います。

水を増やしてみようか。
もう一度すすいでみようか。

予定していた方法がうまくいかなかったときに、別の方法を考える。

そこでは認知的柔軟性が働きます。

そして、水の入った容器を運ぶとき。

早く持っていきたいからといって走れば、水がこぼれてしまいます。

だから、ゆっくり歩く。

自分の動きを調整する。

そこでは抑制する力が使われています。

つまり子どもにとって食器洗いは、単に「お皿をきれいにする」だけの活動ではありません。

考えること、覚えておくこと、自分の動きを調整すること、そしてうまくいかなければ方法を変えること。

一つの生活の活動の中で、さまざまな力が同時に使われています。

特別な知育より、毎日の暮らしの中にあるもの

子どもの「考える力を育てたい」と思うと、私たちはつい、何か特別なものを用意しなければならないように感じます。

知育教材。
習い事。
特別なプログラム。

もちろん、それぞれに意味があるでしょう。

でもAlejandra先生が伝えているのは、もっと身近なところにも、子どもの発達を支える豊かな経験があるということです。

自分で服を着ようとする。
食事の準備をする。
使ったものを片づける。
こぼした水を拭く。
食器を運ぶ。
洗う。

大人にとっては何気ない日常の仕事です。

でも子どもにとっては、

「次は何をするんだっけ?」
「どうやったらできるかな?」
「こぼれないようにするには?」
「さっきのやり方ではできなかった。今度はどうしよう?」

と、自分の頭と身体を使う機会がたくさん含まれています。

実行機能を育てる経験は、毎日の暮らしの中にあるのです。

うまくいかない瞬間に、大人はどうする?

ここからが、Alejandra先生の話の中でも特に大切なところです。

子どもが困っています。

水をこぼした。
洗剤を入れすぎた。
順番が分からなくなった。
何度やってもうまくいかない。

大人には、解決方法が分かっています。

だから、つい教えたくなります。

「それじゃなくて、こっちだよ」
「こうやればいいんだよ」
「貸して。やってあげる」

でも、そのとき子どもの中では何が起きているでしょう。

どうすればいいだろう。
もう一度やってみようかな。
別の方法ならできるかな。

まさにその瞬間、子どもは考えています。

大人がすぐに答えを渡してしまえば、問題は早く解決します。

でも同時に、子どもが自分で考えるはずだった時間も終わってしまいます。

子どもと活動をつないだら、大人は一歩下がる

モンテッソーリ教育では、大人が何もしないわけではありません。

子どもがまだ知らない活動なら、やり方を伝えます。
必要であれば、ゆっくりやって見せます。
子どもが自分でできるように、道具や環境も整えます。

大人には大切な役割があります。

でも、子どもと活動がつながり、自分でやり始めたらどうでしょう。

そこから先まで、大人がずっと導き続ける必要はありません。

Alejandra先生は、子どもが自分で活動を進め、探索し、間違え、問題を解決する機会を持てるようにすることの大切さを伝えています。

そして、大人が継続的に介入することは、こうした能力が発達する可能性を妨げると指摘しています。

子どもと活動をつなぐ。

そして、つながったら少し離れて見守る。

大人が「一歩下がる」ことで、初めて子ども自身が使える力があります。

「手伝わない」ということではありません

ここは、とても大切なところです。

「すぐに手伝わない」というのは、困っている子どもを放っておくという意味ではありません。

まだできないことを無理に一人でさせることでもありません。

必要な援助はします。

でも、

「本当に今、私の助けが必要だろうか?」

と、一度考えてみる。

子どもは、もしかしたら困っているのではなく、考えている途中なのかもしれません。

手が止まっているからといって、何もしていないとは限りません。

何度も同じことを試しているのも、「できない」のではなく、自分なりに方法を探しているのかもしれません。

大人には簡単に見えることでも、子どもにとっては初めて出会う問題です。

その問題を自分で扱う時間まで、大人が奪わないこと。

それも援助の一つなのです。

失敗しないことより、「失敗したあと」を見てみる

子どもの活動を見ていると、私たちはどうしても「できたか、できなかったか」に目が向きます。

水をこぼさず運べた。
きれいに洗えた。
最後までできた。

もちろん、それも成長です。

でも、実行機能という視点から見ると、もう一つ大切な姿が見えてきます。

失敗したあと、その子はどうしたでしょう。

水をこぼしたあと、自分で布を取りに行った。

泡が多すぎることに気づいて、水を足してみた。

一度できなかった方法をやめて、違うやり方を試してみた。

途中で少し気持ちが乱れたけれど、もう一度戻ってきた。

そこには、完成したものだけを見ていては気づけない成長があります。

「失敗しなかった」ことだけが成功なのではありません。

うまくいかなかったときに、自分で次の行動を考える。

その経験そのものが、子どもの中に積み重なっていきます。

大人の姿も、子どもは見ています

Alejandra先生は、もう一つ大切なことを挙げています。

それは、大人自身の姿です。

予定通りにいかなかったとき。
物を落としてしまったとき。
間違えたとき。
イライラしたとき。

大人はどうしているでしょう。

「あ、間違えちゃった。もう一回やってみよう」

こぼしたものを黙って拭く。

思った通りにならなくても、少し考えて別の方法を試す。

幼い子どもは、周囲の大人の行動をよく見ています。

大人自身が気持ちや行動を調整し、問題に対処している姿も、子どもが自己調整を学んでいく環境の一部です。

私たちが問題にどう向き合っているかも、子どもにとっては毎日の「お手本」になっています。

「できない」のではなく、「考えている途中」かもしれない

子どもが困っている姿を見ると、助けてあげたくなります。

それはとても自然なことです。

でも、次にそんな場面に出会ったとき、ほんの少しだけ待ってみてもいいかもしれません。

すぐに答えを言わずに見る。

すぐに手を出さずに見る。

すると、子どもの手がもう一度動き始めるかもしれません。

違う方法を試すかもしれません。

もう一度、同じやり方を確かめるかもしれません。

その姿は、大人から見ると「できない」ように見えても、子どもにとっては「考えている途中」なのかもしれません。

実行機能は、生まれたときから完成している力ではありません。

子どもはその力を育てる可能性を持って生まれ、毎日の経験の中で少しずつ発達させていきます。

自分で服を着ようとする。
食卓の準備をする。
こぼした水を拭く。
使った食器を運ぶ。
洗う。
片づける。

そんな暮らしの中に、考え、選び、間違え、やり直す機会があります。

子ども自身がやってみること。
そして、うまくいかなかったときにも、自分で次の一手を考えられる時間を残しておくこと。

「できないから手伝う」の前に、ほんの少しだけ待ってみる。

その短い時間にも、子どもの中では大切な力が育っているのかもしれません。

参考資料・出典

Association Montessori Internationale(AMI)
Alejandra Rosas「Support for the Development of Executive Functions in the First Three Years of Life」/Voices of AMI Training
AMI公式記事を見る

Voices of AMI Training 一覧を見る

※本記事は、AMI 0–3トレーナーAlejandra Rosas先生による「Support for the Development of Executive Functions in the First Three Years of Life」をもとに、乳幼児期の実行機能の発達と、日常生活の中で大人ができる援助について、保護者の方にもわかりやすい形で紹介したものです。

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