3歳の目線95cmから街を見ると? – Urban95と、100年前のウィーンのモンテッソーリ教育
今から約100年前、ウィーンの市営住宅の中に、モンテッソーリ幼稚園がつくられました。
そこでは、教具を置くだけではなく、家具や設備そのものが、子どもが自分で生活できるように考えられていました。
そして2026年11月、AMI(Association Montessori Internationale/国際モンテッソーリ協会)は、この約100年前のウィーンの実践と、現代の都市づくり「Urban95」を一つの講演の中で取り上げます。
なぜ、モンテッソーリ教育の歴史と都市計画が同じ場で語られるのでしょうか。
約100年前、ウィーンに「子どものための環境」がつくられた
1920〜30年代のウィーンでは、大規模な市営住宅の建設が進められていました。
住宅だけを建てるのではなく、保育施設、図書館、共同設備なども含め、地域全体を生活の場として整えていく都市づくりです。
その一つが、ウィーンのカイザーミューレン地区に建てられた市営住宅「ゲーテホーフ(Goethehof)」でした。
1932年、この集合住宅の中に、ウィーン市によるモンテッソーリ幼稚園が開設されます。
ここで中心的な役割を果たしたのが、モンテッソーリ教師ヘディ・シュヴァルツ(Hedy Schwarz)でした。
ヘディ・シュヴァルツとゲーテホーフのモンテッソーリ幼稚園
シュヴァルツは、ウィーンでモンテッソーリ教育の実践に携わり、ゲーテホーフの幼稚園の整備と運営に関わりました。
興味深いのは、この幼稚園が「教具を置いた保育室」だけではなかったことです。
建築や家具の設計には、フリードル・ディッカーとフランツ・ジンガーのアトリエが関わりました。
子どもたちが自分で生活に参加できるよう、家具や設備そのものが工夫されていました。
当時の写真には、子どもが食後の食器を自分で洗う様子も残されています。
小さな机や椅子を置くことが目的ではありません。
子どもが自分でできるように、環境そのものを変える。
それが、実際の建築や家具にまで落とし込まれていたのです。
モンテッソーリ教育が「都市の中」にあった
ここで面白いのは、この幼稚園が単独で存在していたわけではないことです。
市営住宅という、子どもたちが実際に暮らす場所の中に、モンテッソーリ教育の環境が組み込まれていました。
家、地域、保育施設が完全に切り離されていなかったのです。
モンテッソーリ教育でいう「準備された環境」が、教室の中だけではなく、生活する地域の中に置かれていたと考えると、とても興味深い実践です。
しかし、その実践は政治の中で壊されていく
この幼稚園の歴史は、長くは続きませんでした。
1934年、オーストリア国内の政治的な衝突の中でゲーテホーフは戦闘の舞台となり、幼稚園も被害を受けます。
ヘディ・シュヴァルツは職を失いました。
その後も彼女は私立の幼稚園を運営しますが、1938年、ユダヤ人であったシュヴァルツはナチスの迫害を逃れてイギリスへ渡ります。
イギリスでは、その後アンナ・フロイトの活動にも関わりました。
今回のAMI Talksでこの歴史を紹介するZoe Doye氏は、シュヴァルツが残した写真、手紙、書簡などをもとに研究を続けています。
2026年、AMIがこの歴史を再び取り上げる
2026年11月4日、AMIはオンライン講演「A City for Children: Montessori’s Vienna Legacy and Today’s Urban Family Life」を開催します。
一つ目の講演では、Zoe Doye氏が、ヘディ・シュヴァルツと戦間期ウィーンのモンテッソーリ教育について紹介します。
そして、もう一つの講演で取り上げられるのが、現代の都市づくりの取り組み「Urban95」です。
Urban95とは?
Urban95は、Van Leer Foundationが進めている国際的な都市政策・都市計画の取り組みです。
「95」という数字は、3歳くらいの子どもの目の高さを象徴しています。
出発点となる問いは、とてもシンプルです。
「95cmの高さから街を見たとき、何を変えますか?」
対象になるのは、公園だけではありません。
道路、歩道、交通、住宅、公共空間、保育や医療サービスなどを、乳幼児と養育者の視点から見直します。
主な対象は、一般家庭というより、自治体、都市計画担当者、行政のリーダーです。
つまり、幼い子どもの視点から街を見ることで、大人中心の都市設計の中に何が見えてくるのかを考える取り組みです。
なぜAMIは、Urban95とウィーンの歴史を並べるのか
Urban95はモンテッソーリ教育のプロジェクトではありません。
また、現在のウィーン市でUrban95が導入されている、という話でもありません。
それでもAMIがこの二つを同じイベントで扱うのは、共通する問いがあるからでしょう。
子どもを、大人のためにつくられた環境に合わせるのか。
それとも、子どもが自分の力を使えるように、環境の側を考え直すのか。
約100年前のゲーテホーフでは、子どもが生活に参加できるように、家具や空間がつくられました。
現代のUrban95では、都市そのものを乳幼児の視点から見直そうとしています。
規模はまったく違います。
でも、環境の側を見るという発想には、どこか共通するものがあります。
「準備された環境」は教室だけのものなのか
モンテッソーリ教育では、子どもができない場面に出会ったとき、まず環境を見ます。
棚が高すぎないか。
道具が重すぎないか。
必要なものが自分で取れる場所にあるか。
動きやすい空間になっているか。
その考え方を、教室の外へ広げるとどうなるでしょう。
歩道の幅。
車の速度。
横断歩道の位置。
ベンチや木陰。
公園までの距離。
子どもと養育者が安心して過ごせる場所。
もちろん、都市を変えることは教室の棚を動かすようにはいきません。
行政、予算、交通政策、建築、都市計画など、多くの仕組みが関わります。
それでも、「できないのは子どもの問題なのか。それとも環境にも変えられることがあるのか」という問いは、教室でも街でも共通しています。
100年前のウィーンと、現代の95cm
1932年、ウィーンの市営住宅の中にモンテッソーリ幼稚園がつくられました。
そこでは、子どもが自分の力を使えるように、空間や家具が整えられていました。
そして約100年後。
Urban95は、都市そのものを幼い子どもの視点から考え直そうとしています。
両者は同じ取り組みではありません。
でも、AMIがこの二つを同じイベントで取り上げることで、モンテッソーリ教育の「準備された環境」という考え方が、教室の外まで広がって見えてきます。
今回のAMI Talksは、「子どものための街」とは何なのかを考えるきっかけになりそうです。
AMI Talks 開催概要
A City for Children: Montessori’s Vienna Legacy and Today’s Urban Family Life
開催日:2026年11月4日(水)
開催形式:オンライン
参加費:無料
主催:Association Montessori Internationale(AMI)
※AMI公式ページでは開始時刻の表記に食い違いがあるため、参加する場合は開催前に最新情報をご確認ください。
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