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教室ごと移動するモンテッソーリ園 – ケニアの遊牧民サンブルの子ども200人を支える「テントの学校」

ケニア北部、サンブルの人々が暮らす地域に設けられた移動式モンテッソーリ園。大きな木のそばにテントの教室が建っています。写真をもとにしたイラスト。

ケニア北部の乾燥した大地。山々を背景に、大きな木のそばにテントが建っています。

テントの中には、子どもたちが使う小さな棚やモンテッソーリの教具が並び、床には活動のためのマットが敷かれています。

ここはキャンプ場ではありません。3〜6歳の子どもたちが通うモンテッソーリ園です。

しかも、この学校には大きな特徴があります。

必要になれば、テントをたたみ、教室ごと別の場所へ移動できるのです。

2025年、この地域の4つのモンテッソーリ園には、合わせて200人の子どもたちが通いました。

学校を運営するサララ財団(The Sarara Foundation)が発表した2025年度の年次報告から、遊牧民の暮らしに合わせてつくられた、少し変わったモンテッソーリ教育の姿をご紹介します。

子どもが学校に通えないなら、学校が子どものところへ行く

ケニア北部のナムニャク地域には、古くから牧畜を営んできたサンブルの人々が暮らしています。

サンブルの人々は、牛やヤギなどの家畜とともに生活し、牧草や水を求めて移動する伝統を持っています。

しかし、この暮らし方には、子どもの教育という面で難しさがありました。

学校が遠く離れた場所にあれば、幼い子どもが毎日通うことは簡単ではありません。また、家族が家畜とともに移動すると、子どもが学校に通い続けることも難しくなります。

そこで考えられたのが、子どもの暮らしに合わせて、学校そのものを移動できるようにするという方法でした。

教室には、固定された建物ではなく、解体・移設できるテントを使用します。テントの中にはモンテッソーリの教具や子ども用の家具が置かれ、学期末にはテントをたたんで保管することもできます。

従来の学校では、子どもが学校のある場所へ通うことが前提です。ところが、ここでは、その前提を変えてしまったのです。

なぜ、モンテッソーリ教育だったのでしょうか

サンブルの社会には、年齢集団(エイジセット)と呼ばれる伝統的な仕組みがあります。人々は年齢集団を通じて共同体の中で役割を分かち合い、協力しながら暮らしてきました。

そのため、子どもを一歳ごとに分け、学年単位で一斉に教える学校の仕組みが、必ずしも地域の文化に合うとは限りません。

一方、モンテッソーリ教育では、異年齢の子どもたちが同じ環境で生活し、それぞれの発達段階に合わせて活動します。

子どもは自分で活動を選び、繰り返し取り組みながら学んでいきます。

年齢だけで一律に活動を決めないことや、子ども自身の主体性を大切にする考え方は、サンブルの文化とも親和性がありました。

もちろん、モンテッソーリ教育とサンブルの伝統文化が同じというわけではありません。

大切なのは、地域の文化を学校に合わせて変えようとするのではなく、その文化を尊重しながら、子どもの発達を支える教育環境をつくろうとしたことです。

学校では、サンブルの伝統的な布を使った衣服も取り入れられています。また、子どもたちには、学校で栄養のあるお粥が提供されています。

教育を受けるために伝統的な暮らしを諦めるのではなく、その暮らしの中で教育を受けられるようにする。それが、この取り組みの出発点でした。

木製の棚に並ぶモンテッソーリ教具。テントの中にも、子どもが自分で活動を選べる「準備された環境」がつくられています。写真をもとにしたイラスト。

テントの学校で、200人の子どもたちが学んでいる

この取り組みは、2018年にサララ財団とAMI(国際モンテッソーリ協会)の協力によって始まりました。

2020年には、ティンティルとンタパラニにテント型の学校が開設され、その後、レングサカにも学校がつくられました。2023年には4校目となるロウワイ・オボ校が開設されています。

そして、2025年度の報告には、次のような成果が記されています。

  • 在籍児童200人:3〜6歳の子どもたち。男子100人、女子100人。
  • モンテッソーリ教師14人:男性7人、女性7人が活動。
  • 28人が小学校へ進学:モンテッソーリ園で学んだ子どもたちが、小学校1年生へ進みました。
  • 2019年以降、累計1,030人以上:地域の子どもたちに幼児教育の機会が提供されました。

2025年には、特にレングサカ校とンタパラニ校で、数や読み書きに関する学習の進歩が報告されています。

小学校へ進んだ28人についても、就学に向けた準備が十分にできていたと評価されています。

これらは運営団体による報告であり、モンテッソーリ教育そのものの効果を比較実証した研究ではありません。

それでも、これまで幼児教育を受けることが難しかった地域で、子どもたちが継続して学び、小学校へ進む道が開かれていることには、大きな意味があります。

象がやって来る学校 – 自然の中で教育を続ける難しさ

テントを使った学校には、通常の園では考えにくい問題もあります。

2025年の報告には、驚くような出来事が記されています。

レングサカ校では、象が学校の敷地内に入ってきたのです。

この地域では、人々の暮らしと野生動物の生息域が重なっています。

また、雨が早く降り始めたことで、一部の学校では移設が必要になりました。

乾季には、水や牧草を求めて移動する家庭が増えます。家畜の世話を手伝う必要から、学校に通い続けることが難しくなる子どももいます。2025年には、年間で13人の退園者が報告されています。

さらに、学校を維持するためには、テントのファスナーの修理、シロアリ対策、太陽光発電設備の整備なども必要です。水の確保も重要な課題です。

こうした状況の中で、現地の教師たちは教育を続けています。

移動できる学校は、すべての問題を解決する魔法の仕組みではありません。

それでも、移動できない建物を建てるより、地域の暮らしに柔軟に対応できる可能性があります。

そして、ここで改めて考えさせられるのが、モンテッソーリ教育の「準備された環境」という考え方です。

準備された環境とは、必ずしも立派な建物や、整った設備のことだけを指すわけではありません。

子どもが安心して活動でき、自分で選び、自分の力を使って学べる環境が用意されていることが重要なのです。

遠くから教具を運ぶだけではない。地域の人々が学校をつくる

2025年の報告で、もう一つ注目したいのは、教師と保護者の取り組みです。

モンテッソーリ教育では、子どもが手を使って活動するための教具が欠かせません。

しかし、ケニア北部の遠隔地では、必要な教具を購入して運ぶことも、現地で製作することも簡単ではありません。

そこで、教師たちは地域で手に入る材料を使い、教具を製作する工夫を進めています。

レングサカ校では、主任教師が中心となって教具づくりに取り組み、ほかの学校にも広げようとしています。

保護者の参加も増えています。

ロウワイ・オボ校では、保護者たちが協力して学校のキッチンを修理しました。さらに、図書室や地域の文化を伝える小さな博物館の計画に向けて、保護者たちが資料や材料を提供しています。

学校は、外部の支援団体がつくって与えるだけのものではありません。

そこに暮らす人々が、自分たちの子どものために、少しずつ学校を育てているのです。

教師を地域の中で育てる

この取り組みを長く続けるためには、現地でモンテッソーリ教師を育成する仕組みも必要です。

サンブルの学校で活動する教師たちは、ケニア国内だけでなく、タンザニアやウガンダなどでも研修を受けています。

2025年には、6人の教師が3〜6歳、または6〜12歳の資格取得に向けた学習を続けていました。

なかでも注目されるのが、メシャク・ナイボル(Meshak Naibor)先生です。

メシャク先生は、レングサカ校で主任教師と指導役を務めながら、教師養成に必要な研修を進めています。

2025年度の報告によると、2026年末に資格取得を終え、2027年1月からサララで一度に最大10人の教師を養成できる体制を目指しています。

それまでは、教師が養成を受けるために、車で約8時間かかるナクルまで移動する必要がありました。

地域の中で教師を育てられるようになれば、移動の負担を減らし、教育を継続する力を高めることができます。

また、ンタパラニ校で活動するテリー・コスケイ(Terry Koskei)先生は、AMIの国際トレーナー資格取得に向けた長期の養成課程を進んでいます。

子どもたちが地域を離れずに学べるだけでなく、教師も地域の中で育つ。

この二つがそろって初めて、学校を長く支える基盤ができていくのでしょう。

モンテッソーリ教育を、世界のさまざまな地域へ

この学校づくりには、AMIのEducateurs sans Frontières(EsF/国境なき教育者たち)も関わっています。

EsFは、モンテッソーリ教育の考え方を、教育の機会や資源が限られた地域にも届けるための国際的な活動です。

サンブルの学校づくりでは、ケニアの「Corner of Hope」で経験を積んだ教師たちが指導役となり、地域出身の教師を支えてきました。

この取り組みは、AMIが進めるCommunity Rooted Education(CoRE/地域に根ざした教育)とも考え方が重なります。

CoREは、地域にある知識や資源を生かしながら、子どもの発達を支える大人を育てるための教育プログラムです。

ただし、サンブルの学校がCoREの養成プログラムとして運営されているという意味ではありません。

両者に共通するのは、教育の方法を外から一方的に持ち込むのではなく、地域の人々が主体となり、その土地に合った教育を育てていくという姿勢です。

学校の形は、一つでなくてもいい

2026年10月15日の国際モンテッソーリ協会(AMI)の発表によると、ナムニャク地域では、5つの移動式モンテッソーリ園で3〜6歳の子どもたちが学んでいます。

さらに、6〜9歳の子どもたちのための教育環境や、移動式の図書館、物語を楽しむための活動拠点づくりも構想しています。

幼児教育だけで終わらせず、その先の学びへとつなげていこうとしているのです。

モンテッソーリ園と聞くと、木製の棚や教具が整然と並ぶ、美しい教室を思い浮かべる人も多いでしょう。

もちろん、子どものために整えられた環境は大切です。

しかし、ケニアのテントの学校を見ていると、環境を整えるということの意味を、もう一度考えさせられます。

子どものための環境は、必ずしも建物の中にある必要はありません。また、世界中の子どもたちに、まったく同じ教室を用意することが目的でもありません。

そこに暮らす子どもたちは、どのような生活をしているのか。何を必要としているのか。その子どもたちが、自分の力で育っていくためには、どのような環境が必要なのか。

それを考えることが、モンテッソーリ教育の出発点なのだと思います。

子どもを学校の仕組みに合わせるのではなく、子どもの暮らしに合わせて学校の形を変える。

ケニアの大地に建つテントの学校は、モンテッソーリ教育が世界に広がるとはどういうことなのか、その大切な意味を教えてくれています。

参考資料

1.The Sarara Foundation(2025)
2025 Nomadic Education Program Annual Report(PDF・全13ページ)
本記事の中心となる一次資料。2025年の在籍児童数、教師養成、学校の移設、地域住民の参加、今後の計画などを収録。

2.The Sarara Foundation
Nomadic Education Program
遊牧民の生活に合わせた移動式モンテッソーリ園の仕組み、学校の写真、教育活動を紹介する公式ページ。

3.AMI Educateurs sans Frontières
The Nomadic Samburu Schools
2018年からの取り組みの経緯と、EsF・AMIの関わりを紹介する公式資料。

4.Association Montessori Internationale(2023年10月25日)
Fourth Nomadic Montessori School Opens
4校目の開設を伝えるAMI公式記事。

5.Association Montessori Internationale
EsF Community Rooted Education(CoRE)
CoREの目的と、地域に根ざした教師支援の仕組みを説明するAMI公式資料。

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