答えを教えるより、発見したくなる世界を – 『シムシティ』の生みの親ウィル・ライトが語るモンテッソーリ教育

街をつくり、人々の暮らしをつくり、宇宙までつくったゲームデザイナー
道路を敷き、住宅地をつくり、発電所を建てる。
少しずつ街が成長していく。ところが、人口が増えると交通渋滞が起こり、電力が不足し、住民から不満の声が上がる。
どうすれば、この街はもっと暮らしやすくなるのだろう。
道路を増やしてみる。税金を変えてみる。公園をつくってみる。
何かを変えるたびに街は反応します。思いどおりにいかないこともありますが、その失敗が次の発見につながっていきます。
1989年に発売された都市建設シミュレーションゲーム『シムシティ(SimCity)』は、そんな体験を楽しむゲームでした。
当時の多くのゲームには、敵を倒す、得点を競う、最終ステージをクリアするといった明確な目標がありました。
ところが『シムシティ』には、決められた勝利条件がありません。
プレイヤー自身が街をつくり、問題を見つけ、試行錯誤を重ねていくのです。
このゲームを生み出したのが、アメリカのゲームデザイナー、ウィル・ライト(Will Wright)です。
ライトはその後、人間の生活をテーマにした『ザ・シムズ(The Sims)』、生命の進化から宇宙までを舞台にした『Spore(スポア)』など、従来のゲームの常識にとらわれない作品を次々と生み出しました。
そして彼は、こうしたゲームづくりの原点について尋ねられるたびに、幼少期に経験したある教育に言及していました。
それが、マリア・モンテッソーリの教育でした。
しかもライトは、大人になってからモンテッソーリの教育理論を改めて学び、その考え方を意識的にゲームの設計に取り入れていたのです。
彼がモンテッソーリ教育について語った数々のインタビューをたどりながら、その創造の原点を探ってみましょう。
2006年|「モンテッソーリ教育は、発見する喜びを教えてくれた」
2006年10月30日、アメリカの雑誌『The New Yorker』に、ジャーナリストのジョン・シーブルック(John Seabrook)によるウィル・ライトの人物記事「Game Master」が掲載されました。
『シムシティ』と『ザ・シムズ』によってゲームの可能性を広げたライトが、当時開発していた新作『Spore』について語る長編取材記事です。
このインタビューで、ライトは幼少期のモンテッソーリ教育について、非常に明確な言葉を残しています。
「モンテッソーリ教育は、私に発見する喜びを教えてくれました」
原文:Montessori taught me the joy of discovery.
ライトは続けて、子どもがブロックで遊ぶことを通して、ピタゴラスの定理のような複雑な理論にまで興味を持てるようになると説明しています。
大切なのは、教師が一方的に理論を説明することではなく、学ぶ本人が自分なりの方法で理解を深めていくこと。
そして彼は、自分の代表作について、さらに踏み込んだ発言をしました。
『シムシティ』は、モンテッソーリ教育から直接生まれたものだというのです。
人々に都市を建設するためのモデルを与えれば、そのモデルを操作する過程で、都市設計の原理を自分自身で見いだしていく。
ライトは、そうした学び方を『シムシティ』の基本に据えていました。
ゲームの中には、道路、住宅、工場、発電所など、さまざまな要素が用意されています。
しかし、それらをどう組み合わせるかについて、唯一の正解が示されているわけではありません。
プレイヤーは、自分で試してみなければならないのです。
そこには、子どもが自分の手で教具を操作し、繰り返し試すなかで法則に気づいていく、モンテッソーリ教育の学び方と重なるものがあります。
『シムシティ』は、都市計画の知識を暗記するためのゲームではありません。
都市について、自分から知りたくなる環境をつくったゲームだったのです。
『シムシティ』 – 破壊するより、つくる方がおもしろかった
この発想が生まれたきっかけも、同じ『The New Yorker』の記事で紹介されています。
ライトが初期に開発した作品は、1984年の『バンゲリング ベイ(Raid on Bungeling Bay)』でした。
ヘリコプターを操縦して敵の施設を破壊するゲームです。
ところが開発を進めるうちに、ライトは思いがけないことに気づきます。
敵の建物を破壊するよりも、その建物が立ち並ぶ街や地形をつくっている方が、ずっとおもしろかったのです。
ゲームの世界をつくるために開発した地形編集ツールを操作すること自体が、彼にとって楽しいものになっていました。
そこから、街を破壊するのではなく、街をつくること自体を楽しむゲームの構想が生まれました。
ライトは都市の仕組みについて調べ、人口や交通、経済など、さまざまな要素が互いに影響し合う都市のモデルをつくっていきます。
ところが、出版社はなかなかこのゲームの可能性を理解してくれませんでした。
従来のゲームのように、勝ち負けがはっきりしていなかったからです。
それでもライトは、プレイヤー自身が目標を見つけるという設計を変えませんでした。
1987年にはジェフ・ブラウンとともにMaxisを設立。そして1989年、『シムシティ』が発売されます。
ウィル・ライトが1989年に生み出した『シムシティ』は、その後もシリーズとして進化を続けました。
以下の映像は、2013年に発売された新しい『シムシティ』の公式トレーラーです。初代作品の「自分の手で街をつくり、育てる」という基本的な発想を受け継ぎながら、グラフィックや都市のシミュレーションが大きく進化しています。
『シムシティ』(2013年版)の公式ゲームプレイ映像。建物が次々と立ち上がり、街が発展していく様子から、ウィル・ライトが生み出したゲームの発想がどのように進化したのかを見ることができます。出典:SimCity公式YouTube(EA/Maxis)。
ライトが用意したのは、完成された街ではありません。
街をつくるための材料と、それらが相互に影響し合う仕組みでした。
その仕組みをどう使うかは、プレイヤー自身に任されていました。
2006年|「よい街とは何か」は、誰が決めるのか
同じ2006年、科学雑誌『Discover』にも、ウィル・ライトへのインタビューが掲載されています。
2006年8月号の「Discover Interview: Will Wright」です。聞き手は科学ジャーナリストのアラン・バーディック(Alan Burdick)でした。
ここでライトは、自分のゲームが現実世界を理解するためのモデルであることについて説明しています。
例えば『シムシティ』では、プレイヤーに「大都市をつくりなさい」と命じるわけではありません。
人口を増やしたい人もいれば、環境のよい街をつくりたい人もいるでしょう。
何をよい街と考えるかによって、プレイヤーの選択は変わります。
同じことは、人々の暮らしを扱う『ザ・シムズ』にもいえます。
仕事で成功することを大切にする人もいれば、家族との生活や人間関係を重視する人もいます。
ライトは、プレイヤーがどのような目標を選ぶかということ自体に、その人の価値観が表れると考えていました。
ゲームは一つの世界を提供しますが、その世界のなかで何を実現したいかは、プレイヤー自身が決めるのです。
これは、ライトのゲームが単に自由度の高い遊びだったというだけではありません。
「あなたにとって、よい街とは何ですか。よい人生とは何ですか」
ゲームそのものが、そんな問いをプレイヤーに投げかけているのです。
2006年|子どもは説明書を読む前に、試してみる
2006年4月、ライトはアメリカの雑誌『WIRED』に「Dream Machines」という文章を寄稿しました。
これはインタビューではなく、ライト本人がゲームと人間の想像力について書いた文章です。
彼は、子どもが新しいコンピューターゲームを手にしたときの様子に注目しています。
新しいゲームを始めるとき、子どもは必ずしも最初に説明書を読むわけではありません。
まず操作してみる。
ボタンを押したら何が起こるのか、試してみる。
うまくいかなければ、別の方法を試してみる。
そのような経験を重ねながら、ゲームの仕組みを少しずつ理解していきます。
ライトは、この過程を科学的な探究になぞらえました。
自分なりの予想を立て、試し、その結果を観察する。
そして、新しい予想を立てて、また試す。
子どもは、必ずしも誰かにすべてを説明してもらわなくても、経験を通して仕組みを理解していくことができるのです。
さらにライトは、コンピューターの処理能力だけではなく、プレイヤー自身の想像力がゲームを成立させる重要な要素だと考えていました。
ゲームの世界を完成させるのは、開発者だけではありません。
そこに参加する人の考えや創造性もまた、ゲームの世界を広げていくのです。
2007年|「モンテッソーリ教育は、私の教育経験の頂点だった」
2007年3月、ウィル・ライトはTEDの舞台に立ちました。
講演のタイトルは「Spore, birth of a game」。
当時開発中だった『Spore』を紹介する講演です。
しかし、ライトがゲームの実演に入る前に話し始めたのは、意外にも幼少期の教育についてでした。
彼は、アトランタのモンテッソーリスクールに小学校6年生まで通っていたことを振り返ります。
子どもの頃には、その教育の特別な価値を意識していなかったといいます。
ところが大人になって振り返ると、モンテッソーリスクールに通っていた時期こそ、自分の教育経験のなかで最も充実した時期だったと気づいたそうです。
さらに彼は、ゲームづくりを始めてから、マリア・モンテッソーリの教育方法に強い関心を持つようになったと説明しています。
ライトが注目したのは、子どもが誰かに直接教えられるのではなく、教具を操作する過程で自分自身の発見に至るという仕組みでした。
子どもは、遊びながら物事の原理に気づきます。そして、その過程で失敗することもあります。
ライトは、そうした失敗を含めた経験こそが、学びにとって重要なのだと考えていました。
そして、自分がつくるゲームについて、こんな考えを明かしています。
自分のゲームは、現代のモンテッソーリ教具のようなものだと考えている。
人々が自由に試し、自分で原理を見つけられるものをつくりたいというのです。
ここで注目したいのは、彼がモンテッソーリ教育の影響を過去の思い出として語っていないことです。
すでに世界的な成功を収めていたゲームデザイナーが、自分の仕事の目的や方法を説明するために、マリア・モンテッソーリの教育思想を取り上げているのです。
次の動画は、この2007年のTED講演です。
講演の冒頭で、ライト本人がモンテッソーリ教育について語っています。後半では、当時開発中だった『Spore』を実際に操作しながら、その仕組みを紹介しています。
ウィル・ライトによるTED講演「Spore, birth of a game」(2007年)。冒頭でモンテッソーリ教育について語り、その後『Spore』を実演する。出典:TED。
『Spore』- 小さな生命から、宇宙の果てまで
TED講演でライトが紹介した『Spore』は、2008年に発売されました。
このゲームでは、プレイヤーは小さな生命体から出発します。
生き物の形を変え、ほかの生物と関わり、やがて集団をつくり、文明を発展させ、宇宙へと進出していきます。
その過程で、プレイヤーは生物の形や建物、乗り物など、さまざまなものを自分でつくることができます。
ライトが興味を持っていたのは、宇宙生物学や地球外生命の可能性でした。
その関心を出発点として、人々が生命や宇宙の壮大さを体験できるような世界をつくろうとしたのです。
TED講演では、自分があるテーマに強く興味を持ち、調べ、それをほかの人も発見できるような「おもちゃ」にしていくという制作方法についても説明しています。
まず開発者自身が知りたいと思う。
次に、その驚きや発見をほかの人にも体験してもらえるようにする。
それがライトのゲームづくりでした。
次の映像は、2007年に公開された『Spore』のトレーラーです。
『Spore』トレーラー(2007年)。生物の姿を自らつくり、生命と文明の世界を探索していくゲームの様子が紹介されている。動画:YouTube。
なお、『Spore』は生物の進化を正確に再現する科学教材ではありません。
ライト自身も、科学的な正確さだけを追求したゲームではないと説明しています。
彼が目指していたのは、生命や宇宙についての知識をすべて教えることではなく、その壮大な世界に興味を持ってもらうことでした。
学習の終点を用意するのではなく、学習の入口をつくる。
そこに、彼の教育観が表れているように思えます。
2008年|「教えることより、興味を持たせることの方が重要」
2008年9月14日、イギリスの新聞『The Observer』に、ウィル・ライトのインタビュー「Master of the universe」が掲載されました。現在は『The Guardian』のウェブサイトで読むことができます。
新作『Spore』の発売に合わせた取材ですが、ここでもライトはモンテッソーリ教育について語っています。
記者は、ライトのゲームが人々を楽しませるだけでなく、何かを教えることについて、どのように考えているのかを尋ねました。
ライトは、そもそも「教える」という言葉が適切なのか疑問を示しています。
コンピューターゲームやシミュレーションの強みは、知識を直接教えることよりも、人が何かを学びたいと思う動機を生み出すことにあるというのです。
たくさんの知識を頭に詰め込むゲームよりも、あるテーマに興味を持つきっかけになるゲームをつくりたい。
そして、教育が適切に行われれば、学ぶこと自体が本来おもしろいはずだと説明しています。
私たちの社会では、教育と楽しさが切り離されてしまっている。ライトがゲームを通じて取り戻そうとしていたのは、この二つの結びつきでした。
その背景を尋ねられたライトは、再びモンテッソーリ教育を取り上げました。
子どもがブロックなどを使いながら、数学や幾何学の原理を自分で発見していく。
教師が答えを説明するよりも、子ども自身の発見が大きな意味を持つというのです。
このインタビューでも、ライトはモンテッソーリ教育を、自分の教育経験のなかでも特に重要なものとして振り返っています。
『ザ・シムズ』――人間の暮らしにも、正解はない
ライトの代表作として、『シムシティ』と並んで知られているのが、2000年に発売された『ザ・シムズ(The Sims)』です。
こちらは、都市ではなく、人間の日常生活をテーマにしたゲームです。
プレイヤーは家を建て、家具を配置し、そこに暮らす人々の生活に関わっていきます。
食事、睡眠、仕事、人間関係。
どんな家に暮らし、どんな仕事をし、どんな生活を送るのか。
プレイヤーの選択によって、登場人物たちの暮らしは変化していきます。
このゲームの発想には、ライト自身の生活経験が影響していました。
1991年、カリフォルニア州オークランドで発生した大規模な火災によって、ライトは自宅を失いました。
新しい生活を始めるために、家具や生活用品を一つひとつ買い直すなかで、人間の暮らしに必要なものについて考えるようになったのです。
人は、何を必要としているのか。
物が増えれば、幸せになるのだろうか。
どんな生活を送ることが、よい人生なのだろうか。
そうした問いが、人々の暮らしそのものを扱うゲームへと発展していきました。
『ザ・シムズ』でも、プレイヤーは自分なりの目標を見つけることができます。
家をつくることに夢中になる人もいれば、登場人物の人間関係や生活の物語を楽しむ人もいます。
人々は、用意された物語を体験するだけでなく、自分で物語をつくることができたのです。
次の映像は、2000年版『ザ・シムズ』のオープニングとプレイ画面を収録したものです。
『The Sims』初代作品(2000年)のオープニング・プレイ映像。家や家具を配置し、登場人物たちの暮らしを操作する様子を見ることができる。動画:Mamiko(YouTube)。
2008年5月の『The Guardian』のインタビュー「Unlocking the power of parallel play」でも、ライトはプレイヤーが自ら生み出した世界に注目していました。
同じゲームを使っても、ある人がつくった世界と、別の人がつくった世界は異なります。
ライトにとって、その違いを見ることも大きな楽しみでした。
開発者が用意した物語をそのまま体験するのではなく、プレイヤー自身が物語をつくっていく。
ゲームは完成された作品を消費するだけのものではなく、プレイヤーが創造性を発揮するための道具にもなっていたのです。
2009年|モンテッソーリ教育は、ゲームの設計思想にある
2009年3月29日、ゲーム専門メディア『Kotaku』に、非常に興味深い記事が掲載されました。
タイトルは「Maria Montessori: The 138-Year-Old Inspiration Behind Spore」。マリア・モンテッソーリが『Spore』の発想にどのような影響を与えたのかを取り上げた記事です。
記者のブライアン・クレセンテ(Brian Crecente)は、ウィル・ライト本人に加え、AMI/USAの幹部であったヴァージニア・マクヒュー・グッドウィンにも取材しています。
それまでのインタビューとは異なり、この記事では、モンテッソーリ教育そのものが大きなテーマになっていました。
ライトは、一般的な教育では理論を説明してから実践へ進むことが多いのに対し、モンテッソーリ教育では、子どもが具体的な材料を扱い、自分自身で原理を発見していくことに注目していました。
また、モンテッソーリ教具に備わっている、子どもが自分で誤りに気づき、試し直せる仕組みにも関心を持っていました。
彼は『Spore』を開発するときにも、プレイヤーに何を教えるかではなく、プレイヤー自身が何を発見できるかを考えていたと語っています。
そして、ゲームの題材そのものをモンテッソーリ教育から思いつくわけではないとも説明しています。
まず自分自身が興味を持っているテーマがある。
都市の仕組みに関心を持てば『シムシティ』をつくり、人々の暮らしに興味を持てば『ザ・シムズ』をつくる。
そして、そのテーマのおもしろさを、ほかの人にも体験してもらえるような仕組みを考えるのです。
モンテッソーリ教育の影響は、ゲームの題材ではなく、ゲームをどのように設計するかという部分にあったのです。
このインタビューで、ライトは印象的な言葉を残しています。
「モンテッソーリ教育が子ども中心であるように、私たちはプレイヤー中心なのです」
教師が一方的に答えを与えるのではなく、子ども自身が発見できるように環境を整える。
同じようにライトは、開発者がすべてを指示するのではなく、プレイヤーが自分で考え、試し、創造できるゲームをつくろうとしていたのです。
取材を受けたグッドウィンも、モンテッソーリ教育では、子どもが探索し、必要な技能を身につける自由が創造性につながると説明しています。
ライト自身は、モンテッソーリ教育を広めることがゲームづくりの目的ではないとも語っています。
彼が望んでいたのは、人々が創造的になり、自分の力で何かを生み出していると感じられることでした。
モンテッソーリ教育は、その目的を実現するための優れた考え方だったのです。
2009年|失敗することまで、おもしろくする
同じ『Kotaku』のインタビューでは、失敗についても語られています。
ライトは、ゲームデザイナーとして学んだことの一つに、プレイヤーが失敗を楽しむという意外な事実を挙げています。
ただし、どんな失敗でも楽しいわけではありません。
試すたびに異なる結果が生まれ、その違いを探ることができる。そんな失敗には、プレイヤーを夢中にさせる力があるというのです。
『シムシティ』では、せっかくつくった街が思いどおりに発展しないことがあります。しかし、道路を配置し直したり、施設を増やしたりすることで、別の結果を試すことができます。
失敗は単なるゲームオーバーではなく、次に何を試すかを考えるための経験になるのです。
これは、モンテッソーリ教育における「誤りの訂正(Control of Error)」とも通じる考え方です。
例えば、はめ込み円柱では、誤った穴に円柱を入れると、ほかの円柱が収まらなくなることがあります。大人がすぐに正解を教えなくても、子どもは自分で気づき、試し直すことができます。
もちろん、ゲームの失敗とモンテッソーリ教具の誤りの訂正は、同じ仕組みではありません。
それでも、誤りを次の発見への手がかりにできるという点には、共通する考え方が見られます。
2011年|大人になって、マリア・モンテッソーリを学び直した
2011年5月23日、ゲーム業界の専門メディア『Gamasutra』(現在の『Game Developer』)に、ゲーム史研究者トリスタン・ドノヴァン(Tristan Donovan)によるウィル・ライトの長編インタビューが公開されました。
記事名は「The Replay Interviews: Will Wright」。
このインタビューには、今回の記事で特に重要な証言が残されています。
ドノヴァンは、ライトに直接尋ねました。
モンテッソーリ教育を受けた経験は、ゲームづくりに影響したのでしょうか。
ライトは、影響はあったと答えています。
そして、その影響は大人になってから、より明確に意識されるようになったと説明しました。
彼は幼少期に経験したモンテッソーリ教育に改めて関心を持ち、マリア・モンテッソーリの教育理論や教育運動についての文献を読み始めたといいます。
さらに、フリードリヒ・フレーベルの積み木や、シーモア・パパート、アラン・ケイによるコンピューターを利用した教育にも関心を広げていました。
彼が共通点として注目していたのは、人が自分自身の活動を通して知識を構築していくという考え方でした。
ライトが大切にしていたのは、人に何かを教えることよりも、そのテーマに興味を持ち、自分で学びたいと思うきっかけをつくることでした。
また、誰かに道筋を決められて学ぶよりも、自分で方向を決めながら学ぶことの力を重視していました。
インタビュアーは、さらに質問を続けます。
『シムシティ』を制作していた頃、モンテッソーリ教育の影響はまだ無意識だったのでしょうか。
ライトは、そのとおりだったと答えています。
当時の彼は、自分がコンピューター上でものをつくり、それが動き出すことを楽しんでいるのだから、ほかの人もきっと楽しめるだろうと考えていました。
都市の仕組みについて調べるときも、本を読むだけではなく、自分でつくった都市モデルを操作してみることで、理解が深まることを実感していました。
その経験が『シムシティ』の開発を支えていたのです。
そして、その後モンテッソーリ教育の理論を学び直すことで、ゲームづくりにおけるその影響を、より意識するようになったと説明しています。
幼少期に経験した学び方が、まず創造の習慣として残り、その後、大人になって理論として理解し直されていったのです。
これは、ウィル・ライトとモンテッソーリ教育の関係を考えるうえで、見逃せないエピソードです。
2012年|「発見する力」は、人間にもともと備わっている
2012年1月、子ども向けデジタルコンテンツの専門誌『Children’s Technology Review』に、ウィル・ライトのインタビュー「Will Wright on Game Design, Play and Learning」が掲載されました。
聞き手は、子ども向けデジタルコンテンツの専門家スコット・トレイラー(Scott Traylor)です。
トレイラーは、ライトの教育観が幼少期のモンテッソーリ教育によるものなのかを尋ねました。
ライトは、モンテッソーリ教育が自己発見や探索に優れていることを認めながら、興味深い指摘をしています。
自己発見や探索という学び方を、モンテッソーリが発明したわけではない。
人間は、はるか昔から、自分で探索し、試し、発見することによって学んできました。
ライトは、モンテッソーリ教育が、人間にもともと備わっている学ぶ力を生かしていると考えていたのです。
彼はこのインタビューでも、コンピューター上のモデルと現実世界の違いについて触れながら、重要なのは操作を通して人の頭の中にどのような理解が生まれるかだと説明しています。
ライトにとって、モンテッソーリ教育は特別な成功法則ではなく、人間が本来持っている探索する力を引き出す教育だったのでしょう。
モンテッソーリ教育と、デジタルゲームは同じではない
ここで一つ、区別しておきたいことがあります。
ウィル・ライトが自分のゲームを「現代のモンテッソーリ教具」になぞらえていたことと、幼児期の子どもにコンピューターゲームを与えることが望ましいかどうかは、別の問題です。
モンテッソーリ教育の0〜6歳の時期には、現実の物に触れ、身体を動かし、五感を通して環境を探索する経験が大切にされます。
水を注ぐ、重さの異なる物を持つ、具体物を操作する。そうした実際の経験と、画面上での操作は、必ずしも同じものではありません。
今回注目したいのは、ゲームを幼児教育に取り入れるべきかどうかではなく、幼少期に経験した「自分で発見する学び方」が、大人になってからの創造にどのようにつながったのかということです。
答えを教えるより、発見したくなる世界を
ウィル・ライトは、幼少期のモンテッソーリ教育を、大人になってから改めて理解し直していました。
そして、世界的なゲームデザイナーになった後も、その教育の価値を繰り返し語っています。
彼が興味を持っていたのは、都市の仕組みであり、人間の暮らしであり、生命や宇宙の不思議でした。
しかし、そのおもしろさをほかの人にも伝えようとするとき、彼は単に知識を並べて説明する方法を選びませんでした。
自分で試し、考え、発見できる世界をつくったのです。
『シムシティ』では街をつくり、『ザ・シムズ』では暮らしをつくり、『Spore』では生命や宇宙を探索する。
それぞれのゲームは異なりますが、そこには共通する考え方があります。
人は、誰かに答えを教えられるだけでなく、自分自身で発見することによって学んでいく。
幼少期にモンテッソーリ教育で経験した発見の喜びは、その後のライトの創造のなかに生き続けていました。
彼が世界中の人々に届けたのは、正解を教えてくれる世界ではありません。
誰もが自分の問いを持ち、自分の方法で発見できる世界だったのです。
ウィル・ライトとは
Will Wright(1960年1月20日生まれ)
アメリカのゲームデザイナー。ジョージア州アトランタで生まれ、幼少期にモンテッソーリ教育を受ける。
1987年、ジェフ・ブラウンとともにゲーム会社Maxisを設立。1989年に都市建設シミュレーションゲーム『シムシティ』、2000年に生活シミュレーションゲーム『ザ・シムズ』、2008年に生命と宇宙をテーマにした『Spore』などを生み出した。
プレイヤーが自ら目標を設定し、自由な試行錯誤を通して世界を探索するゲームデザインで知られる。
幼少期のモンテッソーリ教育の影響について、数多くのインタビューや講演で語っている。大人になってからマリア・モンテッソーリの教育理論を改めて学び、自分のゲームづくりに意識的に取り入れてきたことも明かしている。
ウィル・ライト(2007年3月9日)。撮影:Steve Jurvetson。出典:Wikimedia Commons。ライセンス:CC BY 2.0。元写真からのトリミングあり。
参考資料
ウィル・ライト本人の取材・寄稿・講演
- John Seabrook, “Game Master”, The New Yorker, 2006年10月30日。2006年11月6日号掲載。
- Will Wright, “Dream Machines”, WIRED, 2006年4月1日。
- Alan Burdick, “Discover Interview: Will Wright”, Discover Magazine, 2006年8月号。
- Will Wright, “Spore, birth of a game”, TED2007, 2007年3月講演。
- Kieron Gillen, “Unlocking the power of parallel play”, The Guardian, 2008年5月2日。
- Ajesh Partalay, “Master of the universe”, The Observer, 2008年9月14日。The Guardianウェブサイト掲載。
- Brian Crecente, “Maria Montessori: The 138-Year-Old Inspiration Behind Spore”, Kotaku, 2009年3月29日。
- Tristan Donovan, “The Replay Interviews: Will Wright”, Gamasutra/Game Developer, 2011年5月23日。
- Scott Traylor, “Will Wright on Game Design, Play and Learning”, Children’s Technology Review, 2012年1月号、5〜7ページ(PDF)。
ゲーム・映像資料
- SimCity (SNES) Playthrough, NintendoComplete, YouTube。
- The Sims 1 Intro + Tutorial, Mamiko, YouTube。
- SPORE – Leipzig Trailer, YouTube。
- Spore公式サイト, Electronic Arts/Maxis。
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