投げる・たたくなどの欲求は、別の活動へ向ける -「ダメ」で止める前にできること

子どもが、おもちゃを投げる。
机をたたく。
水を何度もこぼす。
そんなとき、大人は思わず、
「投げない!」
「たたかない!」
「もうやめて!」
と言いたくなります。
もちろん、人を傷つけたり、物を壊したりする行動は止めなければなりません。
でも、そこで終わらずに考えたいことがあります。
この子は、今どんな動きや感覚を求めているのだろう。
モンテッソーリでは、困った行動をただ止めるだけでなく、その背景にある欲求を観察し、より適切な活動へつなげていくことを大切にします。
「ダメ」と止めても、やりたい気持ちは残っている
何度注意しても物を投げる子がいます。
「投げちゃダメ」と言えば、その瞬間は止まるかもしれません。
でも、「投げたい」「腕を大きく動かしたい」「飛んでいく様子を見たい」という欲求が残っていれば、別の物を見つけてまた投げることがあります。
そこで、
柔らかいボールをかごへ投げる。
お手玉を箱へ入れる。
屋外でボールを投げる。
といった、投げてもよい物と場所を用意します。
「これは投げません。ボールなら投げられるよ」
と、禁止だけでなく、次にできることまで示します。
大切なのは、投げるという欲求そのものを悪いものにしないことです。
禁止するのは危険な方法であって、身体を動かしたいという欲求そのものではありません。
たたきたいなら、力を使える活動へ
たたく行動も同じです。
人をたたく場合は、まず安全を守り、「人はたたきません」と明確に止めます。
そのうえで、
粘土をたたく。
太鼓をたたく。
クッションを押す。
重い物を運ぶ。
など、強く身体を使える活動へつなげます。
ここでも、
「どうしてこんなことをするの?」ではなく、「この子は今、どんな身体の使い方を求めているのだろう」
と考えてみます。
水をこぼすなら、水を扱える活動へ
コップの水を何度もひっくり返す。花瓶の水に手を入れる。水道でいつまでも遊ぶ。
大人には「やめてほしいこと」に見えても、子どもは、水を注ぐ、流れる様子を見る、容器から容器へ移すことに強く惹かれているのかもしれません。
そんなときには、
小さなピッチャーから水を移す。
スポンジで水を吸う。
布を洗う。
植物に水をやる。
といった活動を用意できます。
「ここではこぼしません」と制限を示すことと、水を扱いたい欲求を満たすことは両立できます。
代わりの活動は、「気をそらす」ことではない
ここでいう代わりの活動は、別のおもちゃを渡して忘れさせることとは少し違います。
もともとの行動の中にある、
投げたい。
押したい。
たたきたい。
水を触りたい。
という欲求を見つけて、より安全で適切な方法へつなぐという考え方です。
そのためには、観察が必要です。
いつ投げるのか。
何を投げるのか。
怒った直後なのか。
退屈しているときなのか。
人に注目してほしいときなのか。
同じ「投げる」でも、理由は一人ひとり違います。
でも、何を言ってもつながらない子もいる
「これは投げません。ボールなら投げられるよ」
そう伝えれば切り替えられる子もいます。
でも、すべての子がそうではありません。
発達特性のある子の中には、興奮しているときには言葉が入りにくかったり、次の行動への切り替えがとても難しかったりする子もいます。
そんなときに、同じ言葉を何度も繰り返しても、伝わるとは限りません。
まず優先するのは、安全です。
危険な物を遠ざける。
人との距離を取る。
必要なら刺激の少ない場所へ移る。
そのうえで、言葉を短くします。
「投げません」
「ボールはここ」
くらいで十分なこともあります。
言葉だけでは伝わりにくい子には、実物を見せる、指さす、写真や絵で示すなど、視覚的に分かる方法が役立つ場合もあります。
それでも繰り返すなら、「もっと言い聞かせる」より、その行動の前に何が起きているかを見ることが大切です。
疲れていた。
音や人の多さがつらかった。
活動を終わらせられなかった。
欲しいものを伝えられなかった。
急に予定が変わった。
背景が違えば、必要な援助も変わります。
代替活動は万能ではない
「投げるならボールを渡せばいい」
それだけで解決するとは限りません。
投げることが感覚を求める行動ではなく、怒りや不安の表現かもしれない。注目を求めているのかもしれない。切り替えが難しく、同じ行動を繰り返しているのかもしれない。
だからこそ、
子どもの行動を変える前に、環境・伝え方・切り替え方を大人の側から見直す。
それでも危険な投擲や他害、自傷が続く場合には、家庭や教室だけで抱え込まず、発達支援、小児科、言語聴覚士、作業療法士などと連携して、その子に合う方法を探していく必要があります。
すぐに「治る」ことを目標にしない
発達特性のある子の場合、環境を整えたり、代わりの活動を示したりしたからといって、その行動がすぐになくなるとは限りません。
同じ働きかけを続ける中で、少しずつ切り替えやすくなることもあります。年齢を重ねることで、以前は強く出ていた行動が目立たなくなってくることもあります。
ただし、そこで「特性そのものがなくなった」とは限りません。
幼いころには「物を投げる」「切り替えられない」という形で見えていた困りごとが、成長すると、強いこだわり、不安、人との関わりの難しさ、感覚への敏感さなど、別の形で目立ってくることもあります。
もちろん、すべての子がそうなるわけではありません。発達の仕方も、困りごとの現れ方も一人ひとり違います。
だから、目標を
「この行動を早くなくすこと」
だけにしないことが大切です。
投げなくなったら終わり、ではなく、
「今、その子は何に困っているのか」
を、その時々で見続けていく。
発達特性のある子への援助は、短期間で行動を消すための方法というより、その子の成長に合わせて、暮らしやすい環境や伝わりやすい方法を探し続けることなのだと思います。
「やめなさい」の次に、何を伝えるか
モンテッソーリ教育でいう自由は、何をしてもよいという意味ではありません。
人を傷つけない。
自分を傷つけない。
環境を壊さない。
守るべき限界は、はっきり伝えます。
そのうえで、
「これは投げません。ボールなら投げられるよ」
「人はたたきません。太鼓ならたたけるよ」
と、次にできる行動へつなげます。
そして、それでもつながらない子には、言葉を増やすのではなく、その子が受け取りやすい伝え方と、行動が起こる前の環境を見直す。
投げる・たたくなどの欲求は、消すのではなく、別の適切な活動へ向ける。
でも、それだけで難しい子もいます。
だからこそ大人は、
「この行動をどう止めるか」だけでなく、「この子は今、何を伝えようとしているのか。どんな環境なら、もっと安全に過ごせるのか」
まで考えていきたいのです。
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