先生が椅子ごと運んだほど集中した子 – Amazon創業者ジェフ・ベゾスとモンテッソーリ教育

Amazon創業者、ジェフ・ベゾス。
世界最大級の企業をつくった人物として知られていますが、彼が2歳のころからモンテッソーリ教育を受けていたことは、それほど知られていないかもしれません。
さらに面白いのは、単に「モンテッソーリ出身だった」ということではありません。
大人になったベゾスは、幼いころのモンテッソーリでの経験を何度も語っています。そして50年以上後、自らの資金を使って、今度は子どもたちのためにモンテッソーリ・インスパイアードの幼児教育施設をつくりました。
幼児期に彼の中に残ったものは、何だったのでしょうか。
先生が、椅子ごとベゾスを運んだ
2018年、ワシントンD.C.のThe Economic Club of Washington, D.C.でインタビューを受けたベゾスは、自分が2歳からモンテッソーリ校に通っていたことを話しました。
そこで出てきたのが、なんとも印象的な幼児期のエピソードです。
幼いベゾスは、一つの活動を始めると、なかなか次へ移ろうとしなかったそうです。
あまりにも一つのことに集中しているので、先生は母親に「課題への集中が強すぎて、活動を切り替えさせることができない」と話していました。
そしてついには、ベゾスが座っている椅子ごと持ち上げて、次の活動へ移動させていたというのです。
ベゾスはこの話をしたあと、笑いながら、今一緒に働いている人に聞いても、おそらく自分は今でもそうだと言うだろう、と話しています。
つまり、幼児期に先生を困らせるほどだった「一つのことに入り込む力」を、本人は50年以上たったあとも、自分の特徴として覚えていたのです。
幼児期に受けたモンテッソーリ教育について語るジェフ・ベゾス
30年以上たっても覚えていた、砂文字と大きなイーゼル

ベゾスがモンテッソーリについて語った記録は、2018年だけではありません。
2000年には、米国の『Montessori Life』に「Mr. Amazon.com: An Interview With Founder Jeff Bezos」という本人インタビューが掲載されています。
後に紹介されたそのインタビュー内容では、ベゾスは幼児期の記憶として、
砂文字を指でなぞったこと。
靴ひもを結ぶ練習をする教材。
大きなイーゼルで絵を描いたこと。
などを挙げています。
2歳、3歳ごろの経験です。
それを30年以上たった大人が覚えている。
ベゾス自身も、その環境で幼いころから強い刺激を受けたことは、自分にとって形成的な経験だったのではないか、という趣旨で振り返っています。
もちろん、幼児期のモンテッソーリ教育がAmazonを生み出した、と結論づけることはできません。
それでも、本人が自分の幼児期を振り返ったとき、これほど具体的にモンテッソーリの環境を記憶していたことは興味深いと思います。
集中とは、長く座らせることではない
このエピソードを、「モンテッソーリに行けば集中力のある子になる」という話にしてしまうのは違います。
モンテッソーリ教育で大切にする集中は、大人に「集中しなさい」と言われて生まれるものではありません。
子ども自身が、
「これをやりたい」
と感じるものに出会い、自分から手を動かし、何度も繰り返す。
その中で、周囲のことが気にならなくなるほど活動に入り込むことがあります。
ベゾスの幼児期の話がおもしろいのは、まさにそこです。
大人が用意したスケジュールよりも、目の前の活動をまだ続けたいという子どもの集中の方が強かった。
先生にとっては切り替えに苦労する場面だったでしょう。
けれど、何十年もたって本人が思い出したのは、「言うことを聞かなかった自分」ではなく、一つのことに深く入り込んでいた自分でした。
そして50年後、今度は自分が幼児教育をつくる側へ
話はそこで終わりません。
2018年、ベゾスは20億ドルを投じる「Bezos Day One Fund」を発表しました。
二つの大きな目的のうち一つが、十分な教育機会を得にくい地域に、授業料のかからない幼児教育施設をつくることでした。
そしてベゾスが選んだのが、
Montessori-inspired preschool ― モンテッソーリに着想を得た幼児教育施設
でした。AMI(国際モンテッソーリ協会)も当時、この発表を公式サイトで紹介しています。
そこでベゾスが掲げた言葉が、いかにもAmazon創業者らしいものでした。
“The child will be the customer.”
「顧客は、子どもである」。
Amazonで徹底してきた「顧客を中心に考える」という原則を、今度は幼児教育へ持ち込んだのです。
大人にとって運営しやすい学校ではなく、子どもを中心に考える。
この発想が、ベゾスにとってモンテッソーリと自然につながったことも興味深いところです。
Bezos Academyは、現在も広がっている
その構想は実際に、無償の幼児教育施設「Bezos Academy」となりました。
現在の公式サイトでは、十分な教育資源が届きにくい地域を中心に、3〜5歳の子どもを対象とした、無償のモンテッソーリ・インスパイアードの幼児教育施設を運営しています。週5日のプログラムで、子ども一人ひとりの興味や発達を中心に据えています。
実際のスクールや現在の展開地域についても、Bezos Academy公式のスクール一覧から見ることができます。
現在のカリキュラムも、
子ども中心。
文化的背景への配慮。
発達基準。
モンテッソーリ・インスパイアード。
という考え方を柱にしており、子どもが興味に従って活動し、自分のペースで成長することを重視しています。
そしてBezos Academy自身が公開している「Jeff’s Story」では、ベゾス自身のモンテッソーリ幼児教育の経験が、Bezos Academyをつくる発想につながったことが紹介されています。
これはかなり重要だと思います。
2歳で自分が受けたモンテッソーリ教育を、50年以上たって、別の子どもたちへ提供する側になった。
単なる「成功者の幼児教育エピソード」ではないのです。
Bezos Academyについて紹介する動画
「集中できる子に育てよう」と考えなくてもいい
ベゾスの話を読むと、
「では、幼児期から集中力を鍛えればいいのか」
と思うかもしれません。
でも、モンテッソーリの視点から見るなら、順番はむしろ逆です。
集中させることを目標にするのではありません。
子どもが自分から手を伸ばしたくなる環境を用意する。
十分に取り組める時間を残す。
大人の都合で必要以上に中断しない。
何度も繰り返すことを急かさない。
すると、その結果として深い集中が現れることがあります。
幼いベゾスを先生が椅子ごと運ばなければならなかったという話は、少し極端で、思わず笑ってしまうエピソードです。
でも、その姿を想像すると、モンテッソーリ教育で大切にしていることがよく見えてきます。
子どもが本当に心を奪われているものに出会ったとき、大人が想像する以上の集中が生まれることがある。
そしてその経験を、大人になった本人が覚えていたのです。
幼児期にもらったものを、次の子どもたちへ
ジェフ・ベゾスがAmazonをつくった理由を、モンテッソーリ教育だけに求めることはできません。
集中力も、創造性も、成功も、一つの教育だけで説明できるものではありません。
それでも、彼自身が何十年にもわたってモンテッソーリ時代のことを語り続け、ついには自らモンテッソーリに着想を得た幼児教育施設をつくったという事実には、重みがあります。
幼いころ、砂文字をなぞった。
大きなイーゼルで絵を描いた。
一つの活動に夢中になりすぎて、先生が椅子ごと運んだ。
そして50年以上後。
今度は自分が、子どもたちが自分の興味を追い、自分のペースで学べる場所をつくった。
幼児期に受け取ったものを、大人になって次の子どもたちへ返していく。
ジェフ・ベゾスとモンテッソーリ教育の関係で、私がいちばん興味深いと感じるのは、成功者になったこと以上に、そこなのです。
参考資料・出典
The Economic Club of Washington, D.C.
Jeff Bezos Interview Transcript(2018)
Montessori Life
Mr. Amazon.com: An Interview With Founder Jeff Bezos(2000)
Association Montessori Internationale
Jeff Bezos Announces Montessori-Inspired Preschools
Bezos Day One Fund
Bezos Day One Fund 公式サイト
Bezos Academy
Bezos Academy 公式サイト
Jeff’s Story
Our Curriculum
Schools
※ジェフ・ベゾスの成功やAmazonの創業が、モンテッソーリ教育によってもたらされたとするものではありません。本記事では、本人が語った幼児期の経験と、その後の幼児教育への取り組みを紹介しています。
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