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「教える」より大切なこととは? ピーター・ドラッカーがモンテッソーリに見いだした「学ぶ力」

「どうすれば、もっと上手に教えられるだろう?」
子どもに何かを伝えようとするとき、大人はつい、そう考えます。

けれど、その問いそのものを変えた教育者がいました。

「教える側」ではなく、「学ぶ側」から教育を見る。

その人物が、マリア・モンテッソーリです。

そして、この大きな転換に注目した人物の一人が、経営思想家のピーター・F・ドラッカー(Peter F. Drucker)でした。

「マネジメントの父」と呼ばれるドラッカーと、幼児教育で知られるモンテッソーリ。一見すると、あまり接点がないように思える二人です。

しかしドラッカーの著書を読むと、彼がモンテッソーリの何に注目していたのかが見えてきます。

「マネジメントの父」が、なぜモンテッソーリに?

ピーター・ドラッカーは、企業経営だけを研究した人物ではありません。

組織とは何か。
人はどのように力を発揮するのか。
知識とは何か。
そして、人はどのように学ぶのか。

生涯を通して、「人」と「社会」について考え続けた思想家でもありました。

1973年に出版された代表作『Management: Tasks, Responsibilities, Practices』の中で、ドラッカーは教育について論じています。

そこで登場するのが、マリア・モンテッソーリです。

「どう教えるか」から「どう学ぶか」へ

ドラッカーは、人類が長い間、教育について考えるとき、主に「どうすれば、よりよく教えられるのか」を問題にしてきたと述べています。

どう説明すれば分かるのか。
どう伝えれば覚えられるのか。
どう教えれば身につくのか。

つまり、中心にいたのは「教える人」でした。

ところが20世紀の初め、その問いを大きく変えた人物が現れます。ドラッカーが著書の中で「偉大なイタリアの医師であり教育者」として名前を挙げた、マリア・モンテッソーリです。

モンテッソーリが見ようとしたのは、「教育という活動の結果として、実際に何が起きなければならないのか?」ということでした。

ドラッカーは、その答えを非常に簡潔に表現しています。

「それは教えることではない。もちろん、学ぶことである」

つまり、教育の中心を、

Teaching(教えること)
↓
Learning(学ぶこと)

へ移したのです。

モンテッソーリが観察したのは「子どもがどう学ぶか」

マリア・モンテッソーリは、最初から「こう教えれば子どもは伸びる」という教育方法を頭の中でつくったわけではありません。

子どもを観察しました。

子どもは何を選ぶのか。
どんなときに集中するのか。
なぜ同じ活動を繰り返すのか。
どんなときに大人の助けを必要とし、どんなときには必要としないのか。

ドラッカーが注目したのも、この部分でした。

モンテッソーリは「教師が何をするか」だけではなく、学ぶ側で実際に何が起きているのかを観察し、その過程を分析した。

だからモンテッソーリの教室では、教師がずっと前に立って、子どもたち全員に同じことを教え続けることを中心にはしていません。

環境を整える。
子どもを観察する。
必要なときに活動を提示する。
そして、子ども自身が取り組めるようになったら、少し離れる。

大切なのは、

「先生がどれだけ教えたか」ではなく、
「子どもの中で、どんな学びが起きているか」

だからです。

子どもは、教えられるのを待っているわけではない

実際に幼い子どもを見ていると、このことはよく分かります。

誰かに「歩きなさい」と教えられなくても、立ち上がろうとする。
周囲で交わされる言葉を聞き続け、やがて自分でも話そうとする。

水を注ぐ。
物を運ぶ。
ボタンを留める。
ハサミで切る。

一度終わった活動を、また最初から始めることもあります。

大人には「もうできるでしょう」「さっきもやったでしょう」と思えることでも、子どもは何度も繰り返します。

それは、誰かに評価されるためではありません。

自分の中に「学びたい」という力があるからです。

ドラッカー本人が「教えること」を語る

ドラッカーは経営思想家であると同時に、長年大学で教え続けた教育者でもありました。

Drucker Instituteには、ドラッカー本人が「Teaching(教えること)」について語る映像が残されています。

ピーター・ドラッカー本人が「教えること」について語る「Drucker on Teaching」。動画:Drucker Institute(英語)

この映像はモンテッソーリ教育そのものについて語ったものではありませんが、長年「教える側」にも立ってきたドラッカー本人の姿を見ることができます。

ドラッカーがモンテッソーリについて書いたのは1973年ですが、その後も彼の思想の中では、学ぶ人自身に目を向ける考え方が続いていきます。

知識は、一度覚えれば終わりではなくなった

ドラッカーが早くから指摘していた社会の変化の一つが、「知識社会」の到来でした。

学校で覚えた知識だけで、その後の人生を生きていく。そんな時代ではなくなる。

社会が変われば、新しいことを学ぶ。
仕事が変われば、学び直す。
知らないことに出会えば、自分で調べ、考える。

学ぶことそのものが、生涯続いていく。

そう考えると、幼児期に本当に必要なのは「できるだけたくさんの答えを覚えること」だけなのでしょうか。

それよりも、

「これは何だろう?」
「やってみたい」
「もう一回やってみよう」

と、自分から世界に関わっていく力。

知らないことに出会ったときに、自分で学び始められること。

ドラッカーがモンテッソーリに注目した「TeachingからLearningへ」という転換は、知識が急速に変化する今の時代だからこそ、さらに重要に見えてきます。

「どう教えよう?」の前に、見てみる

子どもがうまくできないとき、大人はつい「教えてあげよう」「やってあげよう」「もっと分かりやすく説明しよう」と考えます。

もちろん、大人の助けが必要なときもあります。

でも、その前に少しだけ待って、子どもを見てみる。

「この子は今、何を学ぼうとしているのだろう?」

そう考えると、すぐに手を出さない方がいい場面が見えてくることがあります。

同じことを何度も繰り返している時間も、失敗してもう一度試している時間も、子どもにとっては大切な「学んでいる時間」かもしれません。

「どう教えるか」から、「どう学んでいるか」へ。

経営や組織について考え続けたピーター・ドラッカーが、教育について考えたときに注目したのが、マリア・モンテッソーリでした。

そしてその視点は、100年以上前の教育だけの話ではありません。今、目の前にいる子どもを見るときにも、大切な問いを私たちに残しています。

ドラッカーはモンテッソーリ教育を受けていた?

ピーター・ドラッカー自身も、幼少期にモンテッソーリ教育を受けた著名人として紹介されることがあります。実際、複数のモンテッソーリ教育団体が、ドラッカーをモンテッソーリ経験者として紹介しています。

一方で、ドラッカーの幼少期の教育歴については資料によって記述が分かれており、どの時期に、どのような形でモンテッソーリ教育を受けたのかについては、慎重に扱う必要があります。

そのため、この記事では「モンテッソーリ教育を受けたから、ドラッカーの思想が生まれた」とは考えていません。

ここで重要なのは、成人したドラッカー自身が著書の中でマリア・モンテッソーリを取り上げ、教育を「教えること」から「学ぶこと」へと捉え直した人物として評価していたことです。

幼少期の教育歴がどうだったのかとは別に、ドラッカー自身がモンテッソーリの考え方に価値を見いだしていた。

それは、彼自身が残した文章から確認することができます。

ピーター・F・ドラッカーとは

Peter Ferdinand Drucker(1909–2005)
オーストリア・ウィーン生まれの経営思想家、著述家、教育者。

企業だけでなく、非営利組織や行政など幅広い領域から「組織と人間」について考察し、現代のマネジメント思想に大きな影響を与えました。

長年にわたり大学で教鞭をとり、「知識労働者」「知識社会」「強みを生かすこと」など、現在にもつながる多くの考え方を提示しました。2005年、95歳で死去。

参考資料・出典

Peter F. Drucker
Management: Tasks, Responsibilities, Practices, Harper & Row, 1973.

Drucker Institute
Peter Drucker – Drucker on Teaching

Global Peter Drucker Forum
Peter F. Drucker Biography

Montessori Foundation
Montessori Myths

※本記事は、ピーター・ドラッカーの経営思想がモンテッソーリ教育によって形成されたとするものではありません。ドラッカー本人が著書の中でマリア・モンテッソーリを取り上げ、「教えること」から「学ぶこと」への転換を評価していることを中心に紹介しています。

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