カテゴリ / コラム ようこそわが家へ~モンテッソーリ×里親活動の記録~
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<第6話> 乳児院の子どもたちを通して見えてきた実親さんの背景と、里親側の気持ちの変化

画像はイメージです

 

毎回の児童養護施設や乳児院の実習の中には
1時間ほどの座学研修が組み込まれていました。
そこでは、施設の子どもたちの生活リズム、子どもたちの気持ちの受け止め方、食育について、家庭と施設の生活の違いなど多岐にわたって、現場の職員さんが私たちにお話して下さいました。

その中で「子どもたちの入所理由」を知る機会があり、

乳児院の場合、最も多い理由が
「母親の精神疾患」
次いで
「養育放棄」「虐待」「経済的理由」とのこと。

これを聞いたときに

この理由って、ひとつひとつ独立してるんじゃなくて、全部つながりそうだなぁ

と感じたのです。

お母さんが精神的に参ってしまったことで余裕がなくなって
養育放棄や虐待につながったり、
経済的にも苦しくなったりしてしまうんじゃないかなと。
もしくは経済的理由が先にあって
そこから精神的にも苦しくなってしまうこともあるかなと。

そしてそれはお母さんひとりの責任ではなく
お父さんの不在だったり
(当たり前ですがお父さんがいなければ子どもはできません)
お父さんお母さんの関係性だったり、
周りにサポートしてもらえる大人がいなかったり
いろいろな要因が重なっているんじゃないかとも思いました。

 

そう感じたときに、私の中で少し何かが変わりました。

 

それまでは、懺悔の意味も込めて正直にお伝えすると

「育てられないなら産まなければいいのに」
「虐待するくらいならうちにくれればよかったのに」

と、実親さんを責めるような気持ちがありました。

これはもちろん子ども目線に立っての怒りなんですが、
子どもの立場に共感しすぎるが故に
実親さんに怒りの矛先が向かっていました。

(もちろん今も、あまりに理不尽な虐待のニュースには
 深い悲しみと憤りを感じざるを得ませんが…)

ただ、ネグレクトを含む虐待の背景に
親御さんの精神的なものや経済的困難による余裕のなさがあるとしたら、

(あぁ余裕がない、だめだ)
と感じた段階で外部にSOSを出すことができて、
その結果、乳児院にいる子どもたちがいる と感じたときに、

虐待に至る前に
他人の手を借りることができるというのも
親から子どもへの愛情の一つなんじゃないかと思えたのです。

だから、乳児院にいる子どもたちは
ある意味、親御さんの愛情をもって、
ここにいるんじゃないかなと。

 

もちろんそれは当のご家族にしかわかりませんし、
そんなきれいごとで済む話ではないかもしれません。

でも何も知らない外野が
乳児院の子どもたちを見てかわいそうと同情し、
実親さんの事情を知らずに責め立てるのは何か違うな
という気持ちが生まれたのは事実です。

 

実際に、実習をしている中で
面会に来る実親さんを何人も見ました。
子どもがイヤでイヤで、ブスっとしている
というような方は一人もいませんでした。
嬉しそうな笑顔で子どもと遊んだり
泣く赤ちゃんを一生懸命あやしたり、
普段見る保護者のそれと何も変わりませんでした。

 

里親という立場は、法律上はあまり強くありません。

実親さんが「子どもと一緒に住みたい」となり
それができると周りが判断したら、
里子ちゃんは実親さんの元に戻るのです。

里親がそれまでどんなに頑張って
里子ちゃんといい関係を築いてきていても、
実親さんの親権の方がはるかに強いので
そちらに戻ってしまうのが現状です。

里親制度はあくまでも子どものためのもので、
子どもを育てたい里親のためのものではありません。
と研修で何度も説明されました。

子どもにとっての優先順位は
実親さんの元で育つ が大前提。
それができないときに
里親、施設などの選択肢が生まれます。

 

今まで育てられなくて里親に預けてたのに、
育てられるようになったら連れて行っちゃうなんて
なんて勝手なんだ

という里親の立場としての気持ちから
実親さんを責める気持ちに繋がっていたのもあります。
ここはものすごい赤裸々ですいません。

 

でも、実習の中で見た実親さんの姿、
研修で得た実親さんの背景という知識、
そして何より乳児院にいる無邪気な子どもたちの姿、
そういうものが全部つながって、

里親や施設に預けている間も、
実親さんは自分の生活を立て直して
我が子を受け入れる準備をしているんだな。
子どものための里親制度って、そういうことか

と腑に落ちたのです。

そして
もし可能なら、実親さんともいい関係を作れる里親になりたいなぁ
とも感じました。
実際には、実親さんと里親が関係を作ること自体
なかなか難しいのかもしれませんが、
でも子どもを育てたいという意志が
実親さんに少しでもあるなら、
それを気持ちだけでも応援できるような里親になりたいなと思ったのです。

この気持ちの変化は私にとってはとても大きいものでした。

そしてそれは、その後養育委託の話が来た時にもつながるのです。(続く)


<第1話> 里親になろう、そう思ってから実際に動き始めるまで
<第2話> いざ、里親研修へ 心に残る愛着障害の話
<第3話> ドキドキの児童養護施設実習 の中で思い出される発達の4段階
<第4話> このモヤモヤは何?…里親家族のロールモデルを求めて
<第5話> 里親登録後の実習の方が長いゾ! 乳児院の子どもたちとの出会い
<第6話> 乳児院の子どもたちを通して見えてきた実親さんの背景と、里親側の気持ちの変化
<第7話> いざ養育委託の話が来たら、ただただ嬉しいだけだったという話
<第8話> はじめまして、里子ちゃん 戸惑いと反発と喜びとが交錯する初対面
<第9話> 里子ちゃんの気持ちをぜんぶ言葉にすることで進んだ交流
<第10話> 私の持ち物を通して交流が進んだ話 
<第11話> 初めてのおうち体験 魅力的なのはおもちゃじゃなかった 日常生活との出会い 
<第12話> 一般家庭は危険がいっぱい 安全確保とモンテッソーリの考え方とのせめぎ合い 
<第13話> おうちは楽しい だけじゃない。不安と緊張で戸惑うことも 
<第14話> まだおうちに来てもいないのに幼稚園選び? 慌ただしくもなんだか楽しい
<第15話> 初めてのお泊まりで、初めて大泣きした夜のこと
<第16話> 甘え全開で嬉しいけど身体が(涙) でもとても大事な「甘え」の意味
<第17話> 今は何が最優先? 難しすぎる育児と家事のバランスゲーム
<第18話> 2回目のお泊まり お迎え時に聞いた初めての言葉
<第19話> 泣く理由が180°変わった3回目のお泊まり 愛着関係の移り変わり
<第20話> お客さんへの反応で垣間見えた、Aちゃんにとってのおうちの意味
<第21話> 交流最後の振り返り Aちゃんをおうちに迎え入れるためのミーティング(第1シーズン最終回)

国際モンテッソーリ教師、保育士/シロクマ   
30歳過ぎてからモンテッソーリに出会い、その考え方に惚れこむあまり国際資格を取る。その後、モンテッソーリ教師・保育士としてこどものいえや保育園で約10年働く。途中、結婚して子どもに恵まれなかったことがきっかけで里親制度に興味を持ち、里親として子どもの養育に関わりたいと思い、今に至る。現在2歳半の里子ちゃんの長期養育を目指して交流中。子どものためのモンテッソーリ、子どものための里親制度がより多くの人に知ってもらえたらという思いで執筆中。
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