カテゴリ / コラム ようこそわが家へ~モンテッソーリ×里親活動の記録~
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<第10話> 私の持ち物を通して交流が進んだ話

画像はイメージです

 

前回、言葉を通して交流が進んだ話をしましたが
もうひとつ、交流が進んだきっかけに
なったことがあります。

 

交流では小さなショルダーバッグを持ち歩いていました。
バッグの中身は、携帯や水筒、メモ帳とボールペン、ハンカチ、ティッシュ、ポーチなど。

あるときAちゃんが
このバッグに興味を示し始めました。

「中、見たいの?」

と尋ねると
「うん」
と目をキラキラさせてうなずくAちゃん。

 

そこで軽くひらめいた私は、

「ここのお部屋で見ると、
 他のお友達も見たい見たいって言って
 集まってきちゃうから
 あとでお散歩のときに
 Aちゃんだけに見せてあげるね。

 Aちゃんのお母さんのバッグだから
 Aちゃんにしか見せられないんだよ」

とちょっと特別感を出して小声で伝えてみました。

 

…物で釣ったと言ってしまえばそれまでですが。笑

 

でも、小さな子どもたちは
大人の持っている物が大好きなのを知っていたので
これは使わない手はないと思ったのです。

 

子どもは生活で実際に使っている物が好きです。
おもちゃがあるのに
どうしてわざわざこっちを触ろうとするの?
と大人を困らせることもありますが、
それは「この世界をもっと知りたい」という
子どもの生まれながらの好奇心、欲求に基づいた行動です。

私の周りにいる人は、何を持っているの?
これは何?どういうものなの?
どんな風に使うの?
名前は何て言うの?
私も触ってみたい!使ってみたい!

この欲求が
子どもを生まれた場所や時代に
適応させる手助けとなります。

例えば日本だったら箸を使って食べるようになる、欧米だったらナイフとフォークを使って食べるようになる、というのも、それぞれの文化への適応と言えます。
周りの大人がこれらの道具を使っているのを見ているからこそ「私も使いたい!」となるのです。

 

とそこまで大げさな話でなくても、
現状、私の持ち物に興味を示しているのは
嬉しいことだと感じ、
じゃあこの持ち物を使って
ここだけの特別な関係を作っていけるかも

という直感の元、それからは毎回、
お散歩に行って私たち親子だけになったときに
私の持ち物を見るようになりました。

「これは?」
「ボールペン」
「これは?」
「メモ帳。さっきのボールペンでここに書くんだよ」
「これは?」
「目薬。目がかゆいときにさすんだよ」
(と実際にさして見せる)

と会話を通して名称を伝えたり、
実際に使ってみたりして

でも自由に見たりさわったりしていいのは
Aちゃんだけなんだよ
特別だからね

ということを伝え続けて
関係を少しずつ深めていきました。

 

あるとき、お部屋の中で
なぜか子どもが私たちの周りに殺到して
お父さんが別の子を抱っこしたときに
それを見たAちゃんが焦った顔をして
私に抱っこを求めてきました。

取られちゃう!と思ったのかもしれません。

「大丈夫だよ、
 お母さんはAちゃんのお母さんだからね。
 お父さんも、
 今は他の子を抱っこしてるけど(笑)
 Aちゃんのお父さんだからね」

と改めて強調して伝えました。

 

持ち物を通しての交流は
思った以上に有効だったのかもしれません。

 

そうやって何度も何度も交流を重ねていく中で、
少しずつ担当さんが離れるように努力して下さって
私たち夫婦とAちゃんの3人だけで
別のお部屋で過ごす時間が増えていきました。

気づけば4ヶ月の月日がたっていました。

(余談ですが
 この間に保育士の仕事は辞めました。
 交流と仕事の両立が心身ともに大変だったので…)

 

この段階に来たら
いよいよ次は、
Aちゃんが私たちのおうちに来る番です。


<第1話> 里親になろう、そう思ってから実際に動き始めるまで
<第2話> いざ、里親研修へ 心に残る愛着障害の話
<第3話> ドキドキの児童養護施設実習 の中で思い出される発達の4段階
<第4話> このモヤモヤは何?…里親家族のロールモデルを求めて
<第5話> 里親登録後の実習の方が長いゾ! 乳児院の子どもたちとの出会い
<第6話> 乳児院の子どもたちを通して見えてきた実親さんの背景と、里親側の気持ちの変化
<第7話> いざ養育委託の話が来たら、ただただ嬉しいだけだったという話
<第8話> はじめまして、里子ちゃん 戸惑いと反発と喜びとが交錯する初対面 
<第9話> 里子ちゃんの気持ちをぜんぶ言葉にすることで進んだ交流 
<第10話> 私の持ち物を通して交流が進んだ話 
<第11話> 初めてのおうち体験 魅力的なのはおもちゃじゃなかった 日常生活との出会い 
<第12話> 一般家庭は危険がいっぱい 安全確保とモンテッソーリの考え方とのせめぎ合い 
<第13話> おうちは楽しい だけじゃない。不安と緊張で戸惑うことも 
<第14話> まだおうちに来てもいないのに幼稚園選び? 慌ただしくもなんだか楽しい
<第15話> 初めてのお泊まりで、初めて大泣きした夜のこと
<第16話> 甘え全開で嬉しいけど身体が(涙) でもとても大事な「甘え」の意味
<第17話> 今は何が最優先? 難しすぎる育児と家事のバランスゲーム
<第18話> 2回目のお泊まり お迎え時に聞いた初めての言葉
<第19話> 泣く理由が180°変わった3回目のお泊まり 愛着関係の移り変わり
<第20話> お客さんへの反応で垣間見えた、Aちゃんにとってのおうちの意味
<第21話> 交流最後の振り返り Aちゃんをおうちに迎え入れるためのミーティング(第1シーズン最終回)

国際モンテッソーリ教師、保育士/シロクマ   
30歳過ぎてからモンテッソーリに出会い、その考え方に惚れこむあまり国際資格を取る。その後、モンテッソーリ教師・保育士としてこどものいえや保育園で約10年働く。途中、結婚して子どもに恵まれなかったことがきっかけで里親制度に興味を持ち、里親として子どもの養育に関わりたいと思い、今に至る。現在2歳半の里子ちゃんの長期養育を目指して交流中。子どものためのモンテッソーリ、子どものための里親制度がより多くの人に知ってもらえたらという思いで執筆中。
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