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「子ども主体」を、理想で終わらせない – リラードが問う教育革命

子どもには、自分で考え、自分から学ぶ人になってほしい。

けれども、何を学ぶか、いつ始めるか、どこまで進むかを、いつも大人が決めているとしたら。子どもは、どこで「自分で学ぶ」経験を積むのでしょうか。

米国バージニア大学で、子どもの発達やモンテッソーリ教育を研究する心理学者、アンジェリン・S・リラードは、2023年の論文で、この問題を学校の仕組みから考えました。論文の題名は「Why the time is ripe for an education revolution(なぜ今、教育革命の機が熟したのか)」です。

国際モンテッソーリ協会(AMI)の研究紹介シリーズ「Research Threads」でも、2024年10月2日に取り上げられています。

リラードの提案は、単に「暗記を減らして、自由な時間を増やそう」というものではありません。

子どもに自分で学ぶことを求めるなら、学校も、自分で学べる場所へ変えよう。その具体的な方法として、モンテッソーリ教育から学べることがある。

この論文では、モンテッソーリが、特色のある教育の一例ではなく、学校改革の有力な選択肢として取り上げられています。

学校に子どもを合わせる、という発想

リラードが主に検討しているのは、米国で広く用いられてきた、教師と教科書を中心とする教育モデルです。

教師が説明し、子どもが内容を覚え、テストで確かめる。同じ年齢の子どもたちが、同じ内容を、ほぼ同じ時期に学ぶ。著者は、この仕組みが、子ども一人ひとりの関心や理解の違いに十分対応できていないと考えます。

論文の特徴は、学校では当たり前に見える三つの仕組みを、その問題を解決するための「手直し」として読み直していることです。

まず、子どもが勉強に興味を持てないときには、成績や順位を使って、学ぶ意欲を引き出そうとする。しかし、それによって「知りたい」よりも「よい点を取りたい」が優先され、学ぶ目的が置き換わることがあります。

次に、子どもによって理解の速さが違うなら、年齢や学力で分けて、同じように教えられる集団をつくろうとする。それでも、一人ひとりの経験や関心の違いがなくなるわけではありません。

そして、十分な学力が身につかないなら、テストの結果で学校や教師に改善を迫る。ここで著者が問題にしているのは、学校や教師の評価・制裁などに結びつく米国のテスト制度です。点数を上げることが強く求められると、授業が出題範囲に偏り、テストに出ない学びが後回しになると指摘しています。

リラードの見方では、これらに共通するのは、今ある教え方を維持するために、子どもや教師の側を調整し続けていることです。

子どもたちを同じように学ばせる工夫を重ねるより、最初から、一人ひとり違うことを前提にした学校をつくれないか。

ここから、論文は別の教育のあり方へ進みます。

「自由に学んで」だけでは、教育は変わらない

では、一斉に教えることをやめて、子どもの興味に任せればよいのでしょうか。

リラードは、それだけではうまくいかないと指摘しています。「子どもは、自分で働きかけながら理解をつくる」という考え方に賛同しても、それを毎日の教室で実行するには、具体的な方法が必要だからです。

どのような教材を用意するのか。どんな順序で経験できるようにするのか。子どもがつまずいたとき、教師は何を示せばよいのか。

「一人ひとりに合わせてください」と言われても、そのための教材や手順まで、教師が毎回一から考えるのは大変なことです。リラードは、子ども主体の教育が広がりにくい理由の一つを、こうした具体的な支えの不足に求めています。

また、読み書きなどの学校での学習を、歩くことや話すことと同じように、自然に身につくものとして扱ってもいません。子ども自身が学ぶためにも、大人が学習につながる環境や手がかりを用意する必要があると述べています。

つまり、選択肢は「大人がすべて教える」か「子どもにすべて任せる」かの二つではありません。

子どもが自分で学べるように、大人が準備する。

その方法を具体的に備えている教育として、リラードが注目するのがモンテッソーリです。

モンテッソーリには、自由を支える準備がある

モンテッソーリ教育には、子どもが手を使って確かめられる教具があり、その使い方を示す「提示」があります。教具と提示は、ばらばらの活動ではなく、次の理解につながるよう、領域や年齢を越えて組み立てられています。

論文に登場する具体例の一つが、二項式・三項式の立方体です。

初めは、立体のピースを組み合わせるパズルのように扱います。子どもは手を動かし、形を確かめながら、一つの立方体を組み立てます。

学びが進むと、教師から示された手がかりをもとに、その立体の構成が代数の式と結びついていることを発見していきます。先に公式を覚えて当てはめるのではなく、触って確かめてきたものが、後の数学的な理解につながるのです。

ここでは、子どもが発見する余地を残しながら、発見につながる教具と提示が用意されています。ただ好きなように触っていれば、必要なことがすべてわかる、という考え方ではありません。

また、多くの教具には、子ども自身が間違いに気づける仕組みがあります。教師に毎回答えを尋ねなくても、自分で確かめ、やり直すことができます。

子どもに任せられるのは、大人が何もしていないからではなく、任せられるように準備しているからです。

リラードがモンテッソーリに見る強みは、「子どもを尊重する」という理念だけでなく、それを実行する教具、提示、教師の養成がそろっていることにあります。

先生が話していない時間にも、学びは進む

このような教室では、教師の仕事も変わります。

全員に同じ内容を説明し続ける代わりに、子どもの活動を観察し、何を理解しているか、どこで困っているかを確かめます。そして、次の段階へ進む準備ができた子どもに、必要な提示を行います。

例えば、ある子どもは、すでに紹介された教具を繰り返している。その間に、別の子どもは、教師から新しい活動を教わっている。

全員が同じことをしていなくても、それぞれの学びが進むようにする。モンテッソーリでは、一人ひとりに合わせることが、特別な追加対応ではなく、もともとの教え方に組み込まれています。

年齢の異なる子どもが一緒に過ごすことにも意味があります。年下の子どもは年上の子どもから学び、年上の子どもは教えることで自分の理解を確かめる。教師だけが、教室で知識を伝える人ではありません。

これは、教師が教えなくなるということではありません。

子どもが自分で取り組めるところは任せ、必要なところで教える。その判断のために、よく観察する。

教師の働きは、説明している時間の長さだけでは見えなくなります。子どもが一人で取り組んでいる時間にも、教具の準備や、それまでの提示、日々の観察が生きているのです。

学力をあきらめるための改革ではない

それでも、子どもの選択を増やすと、必要な知識が身につかなくなるのではないか。そうした疑問は残ります。

リラードは、この点について、既存の比較研究も取り上げています。その一つである2023年の研究レビューでは、32件の研究を統合した結果、従来型の教育と比べ、モンテッソーリ教育は学力面だけでなく、自己調整や社会的な力、創造性などを含む領域でも、平均として肯定的な効果を示しました。

研究や実践には幅がありますが、少なくとも、子どもの主体性を尊重するために、学力をあきらめなければならないわけではないことを示す結果です。

ただし、今回のリラードの論文自体は、新しい比較実験ではなく、既存の研究を検討して学校改革を提案する論考です。著者も、モンテッソーリを万能の解決策とはせず、広く導入する際には、実践の質を保つことが課題になると認めています。

だからこそ、教具を置くだけでは足りません。それを使って子どもの学びを支えられる教師を育てることまで、改革の一部として考える必要があります。

モンテッソーリを、一部の学校だけのものにしない

リラードは、モンテッソーリが私立の幼児教育だと思われがちな一方で、実際には小学校以降にも広がり、米国の公立学校でも実践されていることを指摘しています。学校改革のために、まだ形のない理想を一からつくる必要はないのです。

では、その学び方を、もっと多くの学校へ広げるには何が必要なのでしょうか。

著者が提案するのは、大学の教員養成で、モンテッソーリなどの教育法を専門的に学べる機会を増やすこと。そして、校長もその教育法を理解し、実践する教師を支え、保護者にも学び方の違いを伝えられるようにすることです。

「子どもに任せましょう」と教師に呼びかけるだけではなく、任せられる環境のつくり方と、必要な援助の方法を、教師自身が学べるようにする。その準備があってこそ、子ども主体の教育を毎日の教室で続けられます。

子どもが自分で確かめられる教具がある。理解に応じて学びを進める方法がある。それを支える教師を育てる道筋もある。

リラードが求めるのは、こうした実践を「一部の学校で行われている特別な教育」として眺めるのではなく、これからの学校づくりに生かすことです。

子どもが自分で学べる学校は、すでにある。次に必要なのは、その学びを、もっと多くの子どもに開くことです。

参考資料

原論文
Lillard, A. S.(2023)“Why the time is ripe for an education revolution.”
Frontiers in Developmental Psychology, 1, 1177576. 2023年7月27日公開。
DOI:10.3389/fdpys.2023.1177576。

AMIによる紹介
AMI Research Threads “Why the time is ripe for an education revolution.”
解説:Louise Livingston。2024年10月2日掲載。

論文が参照する研究レビュー
Randolphほか(2023)“Montessori education’s impact on academic and nonacademic outcomes: A systematic review.”
Campbell Systematic Reviews, 19, e1330.
DOI:10.1002/cl2.1330。

著者紹介
バージニア大学心理学部:Angeline Lillard。

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